ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

Spectaculum

先週の土曜に、Mittelaterich Spectaclum 中世野外劇(本当は、どう訳せばよいのか分かりませんが一応)を見てきました。ドイツには、結構な数の中世マニアがいるらしく、中世の騎士や人々の生活を紹介した雑誌が、何種類か出版されています。このような雑誌には、中世野外劇の様子が紹介されていたり、情報が載せられています。私は、そのような雑誌に載せられている、中世の衣装を着た人々の写真や、騎士同士の試合の写真などを見て、機会があればぜひ一度見てみたいと思っていたのですが、今回はミュンスターの近くの小さな街Telgteで開催されるということで、行ってみたのです。

http://www.spectaculum.de/

この野外劇が行われたのは、テルクテ中心部近くにある公園です。入場料は10ユーロで、騎士の馬上試合を見たい場合は追加料金込みで16ユーロです。私は、せっかくなので、16ユーロ払って、騎士の試合も見ることにしました。

衝立で囲われた細長い長方形の会場の両脇には、観客席が設けられており、そこに沢山の人が座っています。この会場だけで1000人以上いるのではないかという、数の多さです。観客は、老若男女満遍なかったので、この野外劇が幅広い人気を博していることが伺えました。

この騎士試合は、ストーリ仕立てになっています。ある伯の娘と4人の騎士が色々な競技で騎士としての技量を競っています。一人の騎士は、伯の娘に結婚を迫っている悪者、一人の騎士はいつも酔っ払っている騎士、もう二人はヒーロー的な役割の騎士です。彼らは、馬で走りながら火のついた輪を槍ですくい取る競技や、兜を剣で叩き、台から落とす競技などを行うのですが、勝つのは常にヒーロー的な役割の騎士です。また、伯の娘もしばしばこれらの競技に飛び入り参加し、他の騎士を押しのけて勝ってしまったりします。

そうやって伯の娘が競技に勝ったときに、異端審問官とその手下が現れ、馬に乗って騎士のように振舞うのは魔女だと言って、彼女を火刑にしようとします。それを阻止しようと、異端審問官側の騎士と、ヒーロー役の2人の騎士が戦います。最初の騎士は、惜しくも負けてしまうのですが、2人目の騎士が悪役を倒し、伯の娘と結ばれて劇は終わります。

この騎士試合は、言うなれば日本の大衆演劇のようなものです。全編を通じて、善玉と悪玉がはっきり分かれています。特に最後の戦いでは、異端審問官側の騎士は、一度命を助けると言った相手を剣で切りつけたり、負けて情けをかけられた後、後ろを向いた相手にだまし討ちを仕掛けるなど、卑怯な行為を繰り返します。戦いの最中でも、憎憎しい表情で、観客に舌を出したりして、観客にブーイングを促すのです。こうして、悪役の強さと卑怯さを印象付けて、最後の最後に正義の騎士が悪を倒し、拍手喝さいを浴びるという仕掛けになっています。

過去の歴史を舞台にして、勧善懲悪、予定調和で進むこの劇は、日本の時代劇と良く似ているなと思いました。でも、劇中の女性が、男顔負けに活躍するところは、現代的なので、流行の要素を取り入れてもいます。また、本来騎士が活躍した時代と、魔女狩りの時代は全然違うのですが、その両者をごちゃごちゃにしてしまうごった煮感というか、面白さのためには整合性は気にしない過剰なサービス精神も、大衆演劇的だと思いました。

しかし、紋章の入った布をまとった馬に乗り、鎧と兜を着け、盾と槍を持った騎士が緑の芝生の上を駆け抜ける様は壮観です。木製の槍が相手にぶつかり、砕け、木片が飛び散る時の迫力、騎士が馬に乗り衣装をたなびかせながら疾走する時のスピード感を、1時間半たっぷりと堪能させてもらいました。


この野外劇には、騎士試合だけでなく、他にも催し物や見どころが山のようにあります。テルクテの公園はかなり広いのですが、その敷地が全て野外劇の会場として使われています。敷地内には、数え切れないほどのテント、売店、ステージ、藁でできた城などが設置されており、到るところでイベントが行われています。そして、この広い会場には、数千人に及ぶお客さんがひしめき合っています。私は、まさかこれほど大規模なイベントだとは思っていなかったので、余りの会場の広さ、そしてお客さんの多さに驚きました。感じとしては、(私は行ったことがありませんが)日光江戸村のドイツ版みたいなものだと思います。

この野外劇は、4時から夜の12時までとかなりの長時間続くのですが、内容が盛りだくさんなので、一日中いても、飽きないだろうと思います。

会場中に設置されたテントでは、中世の日常生活が再現されており、中世の衣装を着たエキストラの人が、料理を作ったり、手仕事をしたりしています。鍛冶屋がふいごで鉄を熱し、叩いて、矢尻を作っていたり、子供が木の棒を投げて倒すという遊びをしていたりするのです。お風呂屋さんもありました。エキストラだけで何百人いるか分からないくらい、テントの数は多かったです。

また、エキストラの人は、ずっとテントにいるわけではなく、会場を普通に歩いているので、あちこちで中世的な衣装を着た人を見かけました。

しかし、中世の衣装を着ているのは、エキストラの人だけではありません。普通のお客さんの中にも、中世的な衣装を着ている人がかなり多かったのです。自分で作ったのか、どこかで買ったのかは分かりませんが、子供、若者、大人、老人にかかわらず、コスプレをしている人が、到るところで見られました。友人の話では、このようなコスプレイヤーは、数年前は余りいなかったのに、年々増えているようです。

また、中世趣味は、ドイツではヘヴィーメタル、特にゴシックと密接な関係があるので、黒い服を着た若者が非常に目立ちました。フリルの付いた黒いシャツやスカートを着て、髪を黒や赤に染め、シルバーの指輪や首輪などを沢山つけている、少々禍々しいと同時に、ロリータな感じの女の子が多かったです。コルセットをつけている人も、結構いました。そこまで気合が入っていなくても、全身黒尽くめの人がやたらと多く、ドイツにおけるゴシックの浸透度を感じました。


会場のあちこちでは、絶えず色々な催し物が行われています。藁でできた巨大な城では攻城戦が行われ、客席で囲まれた芝生では、騎士同士が剣で戦っています。ぼろ布を切り貼りして作られた小さな舞台の上では、小さな大道芸人がジャグリングを披露し、あるテントの前では3人の女性が東洋的な踊りを踊っていました。

会場には、二つステージが作られており、そこではしばしばコンサートが行われます。そこで演奏される音楽は、なぜかどれもバグパイプを中心にした音楽でした。ドイツには、In Extremo というバグパイプを使った有名なヘヴィーメタルバンドがあるのですが、彼らの影響なのでしょうか。ただ、この会場で演奏されたのは、エレキギターなどはなしの、バグパイプと打楽器の音楽だったのですが。あるバンドの演奏者が、上半身裸で、下半身にはスカートをはいているというのも、In Extremo っぽかったです。ちなみに、会場にはIn Extremo のTシャツを着た人も何人かいたので、中世愛好者と彼らのファンは結構かぶっているのかもしれないと思いました。

また、中世関係の様々な売店もありました。剣やナイフ、甲冑、中世的な服や帽子、動物の角でできたコップ、ガラス細工、鉄片に角の付いた節くれだった杖などを売る店が軒を連ねており、見ているだけで楽しいです。また、豚の丸焼きを焼いているスタンドや、珍しいお菓子、様々な果物が入ったワインを売っているスタンドもありました。アーチェリーや、小さな斧を使った射的もありました。

感心したのは、このようなスタンドも、全て中世風とは言わないまでも、現代的なデザインや素材を極力避ける造りになっていて、会場の雰囲気を壊さないことです。細かいところまで、雰囲気作りのために気を配っているので、会場にいる間は中世の村にいるような気分になれるようになっています。お客さんに徹底的にサービスする努力をいたるところで感じたので、これだけ沢山の人がやって来るのも納得できると思いました。