ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

日本人が、広島について外国人に語る価値のあることは何だろうか?

私は、本来は自分の研究で手一杯で、余計なことに手を出す余裕なんてないので、今回の発表も、正直なところ余り引き受けたくありませんでした。にもかかわらず、引き受けたのは、相手の強引な説得に根負けしたからと言うところもありますがが、それよりもやはり、心の底で、これは引き受けないとならない依頼だと思ったからです。

私は個人的に広島という地とは、縁浅からぬ関係がありますし、西洋史を専門にしているとは言え、歴史学を学ぶ者です。そのため、ミュンスターにいる数少ない日本人学生の中でも、私が一番今回の発表の条件に合っているのは確かです。

ドイツでも、英語やドイツ語で、広島の原爆についての文献は沢山見つかり、色々と調査はできると思いますが、当然の事ながら、日本語の文献や情報となると、質量共に桁違いになるはずです。また、実際に原爆の被害にあった被爆者が、まだ日本には生きているわけですし、原爆ドームや記念館を実際に訪れる機会もあります。やはり、日本人の広島に対する感覚は、ドイツ人とは、根本的に異なるところがあるだろうと思います。

そのため、おそらく日本人でないと分からないこと、伝えられないことは、非常に沢山あると思います。だったら、せっかくそれを伝えることが出来る機会があるのだから、誰かがそれを伝えるべきだろうと思います。そして、今回は、それを伝える役目が、自分に回ってきたのだと思います。ならば、その役目を引き受けるのは、異国で暮らす日本人である私の責務であり、同時にドイツ、そしておそらくは日本に対するささやかな恩返しになるのではないかと思います。

もちろん、彼らが私に期待しているのは、おそらくは発表の内容そのものというよりは、私が実際に原爆を落とされた日本という国から来たということの方ではないかと思わないことはありません。それでも、やるからにはドイツ人に有益な情報、視点、論点を贈与できるような発表にしたいと思っています。

しかし、悲しいかな、私はこの分野に通じていないので、今原爆関係で、日本でどのような議論が行われているのか、どのような論点が焦点になっているかをほとんど知りません。しかし、ここ最近、日本において、戦争、軍隊に関する価値感が、急速に変わっているようなので、おそらく原爆問題に関する考え方も、従来とはかなり変わってきているのではないかと思います。ただ、私は、しばらく日本にいなかったので、そういうことが皮膚感覚としては、もう分からなくなっています。

私は、ここしばらくネット上で、原爆関係について色々なサイトを見てみたのですが、もしかすると、この辺が勘所なのではないかと感じたのは、こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』という漫画の評判をネットのあちこちで見たことです。あれから60年が経ち、すでに風化したように見える原爆が、未だに現代に残す仄かな傷跡のようなものについてなら、私にも何か語れるのではないかと思わないことはありません。

幸い資料の購入費は向こうが負担してくれるそうなので、私は日本から何冊か文献を取り寄せるつもりです。そこで、原爆関係で、必読の文献があったら、みなさんに是非教えてほしいのです。また、今の日本で原爆を扱うときに、重要になる論点や視点は何かについても、ご教示をお願いできればと思います。異国にいると、実際に文献を手にとって判断が出来ないので辛いところですが、良い発表ができるように、(研究に重大な影響が出ない範囲で)精一杯準備に取り組もうと考えているので、情報提供の方、よろしくお願いいたします。