ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

シュレーダーがミュンスターにやって来た。

ドイツでも、来週国の命運を決める総選挙と言うことで、大物政治家も活発に動いているようです。今日は、ドイツの首相ゲルハルト・シュレーダーが、ミュンスターにやって来て、街の中心にあるドーム広場で、演説を行いました。私は、ドイツの選挙には全く関係ないのですが、やはりミーハー心があったので、思わず見に行きました。これで、この間の州選挙の時のアンゲラ・メルケルに続き、ドイツの二大政治家の演説を制覇したことになります。

シュレーダーの演説は、7時から始まると言うことで、6時40分頃広場に行ったのですが、その時既に、広場は黒山の人だかりで、広場の道路まで人で埋め尽くされていました。この間のアンゲラ・メルケルの演説の時とは、比べものにならないほど多くの人が押し掛けていました。最終的に12000人が集まったとのことですが、おそらくステージが見えなかったり、場所がなかったりして帰った人も多かったと思われるので、実際の動員数はずっと多かったのではないかと思います。シュレーダーは、個人としてはアンゲラ・メルケルよりずっと人気があると言うことは聞いていましたが、それにしても凄い人気です。

また、この間のメルケルの演説のときと同様、会場には飲み物とケバブが売っていました。ケバブ屋の兄ちゃんは、演説など全くお構いなくケバブを売りまくって、客が途切れると、「ケバブはいらんかね〜」みたいなことを叫んでいました。しかし、今日は余りにも広場が混みすぎて、移動するのが大変だったので、飲み物やケバブを買うのを諦めた人も大勢いたと思います。そういう意味では、もう少し空いていた方が、ものを売るには良かったのでしょう。

私はと言えば、遅く来たので、広場の遙か後ろしか場所がとれず、舞台の隣に据えられた巨大スクリーンすら見えないほどでした。とにかく、まわりはギュウギュウで、息苦しかったです。

いよいよシュレーダー首相が現れると、会場は大盛り上がりになりました。シュレーダーは、非常に大きく、力強く、はっきりした声で演説をし、この声には並々ならぬ説得力がありました。この間のアンゲラ・メルケルの演説も、大したものだと感心して聞いていたのですが、シュレーダーの演説の上手さは、それを遙かに上回ります。

全体的に強い調子で話しているのですが、余り耳触りにならないように、力を抜いて話したり、声のトーンを落としたり、ちょっとおちゃらけて冗談めいて話すなど、様々な調子を織り交ぜていきます。そして、ここぞというところでは、声の調子を一層強め、熱く熱く力説します。話し方のメリハリが非常に巧みなので、演説を聞いていると、気分が高揚し、思わず盛り上がってきます。さすが、首相になるだけのことはあると思わず感心してしまう、演説の説得力でした。

彼は、エネルギー政策から演説を始めたため、何故そんな余り重要とも思えないことをそんなに力説しているのだろうと、聴衆を少々ポカーンとさせました。しかしその後、主要な主要テーマである経済問題に入ると、俄然演説はヒートアップし、単なる合理的な市場経済ではなく、社会的な経済が必要なのだと力説し、メルケルと彼女が登用しようとしているハイデルベルク大学のキルヒホフという学者の計画を、非現実的だと一笑に付し、観衆の大喝采を浴びていました。

彼の言葉を聞くと、非常に熱がこもり、説得的なのですが、私は心の中で、SPD 政権下で経済や失業率が悪化したこと、ハルツ4のような社会保障改革のせいで、社会民主主義を捨てたと失業者や労働組合から猛反発を喰らったために、SPD が地方選で連戦連敗し、苦し紛れの解散総選挙に打って出ざるを得なくなったことを、ふと思い出さざるを得ませんでした。

その後も、今後ロシアと関係を深め、エネルギーを確保していく、貧しい労働者も不公平にならないように、学校や大学制度の学費無料を継続していくと熱く語り、隣国同士で戦争を行わないように、軍事ではなく、近隣諸国との友好による安全保障を目指すと、EU の統一の重要性を主張し、最後に、テロと戦うためには、軍隊ではなく、最も貧しい人たちに手を差し伸べることが重要なのだと、暗に英米対テロ戦争を批判、イラク戦争への不参加の正当性を仄めかしました。そして、一番最後に、これまでの演説の内容を、簡単に要約し、繰り返し、演説を終えました。

経済的には失政をしたと言われても仕方がないSPD ですが、イラク戦争時の対米強硬策は、国民の受けが大変良かったので、演説の一番最後に持ってきたのでしょう。上手いテーマを、最も印象に残る演説のラストに持ってくるとは、さすがだと感心させられました。

この間のアンゲラ・メルケルの演説とシュレーダーの演説の一番の違いは、会場には、彼の支持者ばかりが来ていたことです。メルケルの演説の時は、終始学生が、指笛を吹いたり、ブーイングを飛ばしたりして嫌がらせをして、物々しい雰囲気が漂っていたのですが、今回はそのような野次は全くなく、演説は常に大喝采を持って迎えられていました。

ミュンスターは基本的に保守的なカトリック都市と言うことで、本来CDU の強い街なのですが、学生はやはり左寄りのようで、圧倒的にSPD 支持なのだろうと思います。ちなみにこの日一番反応が良かったのが、大学の学費導入に対する反対について話したときでした。

とにかく、シュレーダーの人気は凄いものがあり、彼はまるでスターのようでした。こちらにいると、おそらく政治家がテレビのニュースや討論会に頻繁に出演して、顔を見る機会が多いからだと思いますが、有名な政治家は、ミーハー心をくすぐるような存在です。私も、シュレーダー首相や、CDU 党首アンゲラ・メルケルCSU 党首のシュトイバー、緑の党党首のヨシュカ・フィッシャー、SPD を離党しDie Linke という左翼政党を創立したラフォンテーヌなどは、やはり一回見てみたいと思います。

個人的には、CDU-CSU-FDP 連合とSPD-緑の党で、それほど政策が変わるのか、良く分からないと思うところはあります。社会民主主義的な政策を存続するのが困難な現状では、いずれにせよ、新自由主義的な政策を取らざるを得ないでしょうから、どちらが政権を取っても、大きな流れは変わらないのではないかと思います。日本でも、自民党民主党で、それほど政策が違うのか良く分かりませんし、案外どこの国でも、どの党を選んでもそれほど政策は変わらず、実質的には余り選択肢はないのではないかというような気もします。

いずれにせよ、世界第二の経済大国に続き、世界第三の経済大国の趨勢が決まるので、一応世界的にも要注目なのでしょう。しかし、ドイツにいると、日本の選挙は遠すぎてリアリティーがないし、ドイツの選挙は、自分と直接関係がないと言うことで、どちらの選挙も、人事のようで、単なるメディアイベントのように思えてしまいます。本来選挙は、娯楽ではないのですが。困ったものです。