ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

日本の核兵器所有をめぐる法的見解

最近日本の核兵器保有について議論があるようですが、とりあえず議論の前提となる法的な位置付けについてメモしておきます。

先ず、日本政府の核兵器使用についての見解。

1994年 6月11日 朝日新聞 丹波実・外務省条約局長に聞く

 ――問題の波紋をどう受け止めていますか。

 「国会内外でいろいろなご意見が起こった段階では、まだ陳述書の内容が最終的に固まっていたわけではなかった。去年五月の世界保健機関(WHO)総会で、核兵器の使用が国際法上の義務違反となるか国際司法裁判所の意見を聞こうという決定があり、国際司法裁判所が日本に見解を求めてきた。『国際法に違反するとまではいえない』という表現だけが突出して報道されたのは、非常に残念です。外務省のこの問題の担当者も日本人です。核兵器の使用は人道主義の精神に合わない、唯一の被爆国としては二度と核兵器が使われることがあってはならない、そして非核三原則を堅持し、今後も核廃絶に向けて努力するという点を強調していくつもりでしたが、印象としてはこれらがみんな吹っ飛んでしまった」

          *

 「陳述書に盛ろうとした諸点は自民党政権時代に限らず、細川連立政権でも閣議決定したうえで、政府の意見書で述べてきたことです。いずれにせよ、今回の件で核抑止力に依存しなくてもよい時代をもたらすため、一層努力する必要を痛感しました。私には貴重な勉強になりました」

 ――実定国際法に違反するとまではいえないとしたのはなぜなのですか。

 「実定国際法とは、実際に存在している国家間の合意、例えば条約などがひとつ。もうひとつは慣習法です。慣習法は、国家間での長い慣行の歴史を通じ、そういうものだよという共通認識で法規範となったもの。例えば外国の軍艦の中に他国の権力は及ばない、とはどこの文書にも書かれていないが、すでに確立した慣習法とされています」

 「戦闘の手段と方法について規制する実定国際法には、軍事的効果と人道主義原則のバランスから、一定の兵器の使用を規制する条約がある。陸海空の戦闘すべてに関して

、過度の障害や無用の苦痛を与える兵器の使用禁止は、一般には国際慣習法として確立した原則といってよいでしょう。だが、核兵器と実定法との関係では、いろいろな学説があります」

 ――そうした条約や慣習法のなかに核兵器使用を禁じたものが見当たらないというわけですか。

 「核兵器の使用については、まだ具体的に規制する条約がないうえ、過度の障害を与える兵器を禁止する国際法の原則に含まれるかどうかも議論のあるところです。だから純粋に法的観点でいえば、核兵器の使用が実定国際法に違反するという判断は国際社会の認識として成立しているとはいえない。ただ、核兵器には絶大な破壊力や殺傷力があり、人道主義の精神には合致しません」

 ――人道主義国際法の思想的基盤で、法律論でも優先すべき精神ではないですか。

 「軍事的な要請と人道主義というものがどこでバランスを保つべきか、という問題になる。今の国際社会では、相手側に国際法違反があるときだけ武力行使が認められます。国際法の侵犯者を国際社会全体で抑えようというわけだから、正義を実現するためにそこで戦闘があるのはやむを得ないともいえます。人を殺傷しないで正義が実現できればそれに越したことはない。だが、国際社会が実力で正義を実現させる必要があるのなら、これは残念だがやむを得ない現実の要請ではないでしょうか」

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 ――「核兵器使用は人道主義に反する」という国際慣習法を確立する努力が必要ではないでしょうか。

 「努力して、今後、核兵器の廃絶を進める過程で、核兵器禁止の条約が固まっていく方向になるのだと思います」

 ――核の使用は国際法で禁じられた無差別攻撃にあたるという意見がありませんか。

 「文民を攻撃してはいけないことは、国際法上確立された原則といえます。しかし文民と軍事目標が混在し、軍事目標を攻撃するために文民にも被害が及ぶ場合、法解釈では国際法違反とは断言できません」

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 ――当初準備した陳述書には「人道主義を尊重」「実定国際法上の解釈による核使用の判断」「核廃絶への希望」の三点を盛り込んでいました。一般には、この三つが論理的に矛盾しているように映ります。

 「安全保障という面で現実の世界を見れば、核兵器が抑止力となって私たちの平和と安全を維持する役割を果たしている点は否定できない。人類が核兵器に依存しなくていい時代をつくることは絶対に必要ですが、廃絶に時間がかかるのも事実。核軍縮が進む過程でも、核兵器があるうちは一定の役割を果たすという、現実社会の矛盾は指摘できます」

 ――そういう核抑止の論理が広く国民の理解を得ているとは思えませんが。

 「今回の論議でそのへんを感じました。核兵器の究極的な廃絶に向けてもっともっと努力する必要があると思います」

西谷研究室 国際法資料集配付資料

このように日本政府は、核兵器の使用が国際法的に容認される場合もあり得るという見解を持っています。

原子力基本法

(昭和三十年十二月十九日法律第百八十六号)

最終改正:平成一一年七月一六日法律第一〇二号

第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。

(基本方針)
第二条  原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。

原子力基本法

ただし、日本では、原子力基本法の第一章第二条で原子力の使用を平和目的に限定していますので、国内法的に核兵器の開発や利用はできません。

また、日本は、NPT (核不拡散条約)を1970年2月署名、1976年6月批准していますので、国際法上も核兵器保有は認められません。

そのため、日本政府も、核兵器保有は現状では不可能だし、所有する意思もないという表明しています。

国務大臣塩崎恭久君) 佐藤議員にお答えいたします。
(中略)
 次に、非核三原則についてのお尋ねがありました。
 我が国が、核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませずとの非核三原則を堅持することについては、これまで歴代の内閣により累次にわたり明確に表明されています。
 政府としては、今後ともこれを堅持していく立場に変わりはありません。また、法律上も、原子力基本法により、我が国の原子力活動は平和目的に限定されています。さらに、我が国は、核兵器不拡散条約上の非核兵器国として核兵器の製造や取得等は行わない義務を負っており、我が国が核兵器保有することはありません。(拍手)

(中略)

国務大臣麻生太郎君) 非核三原則についてのお尋ねがあっております。
 一般論として、たびたび委員会で申し上げましたが、国の安全保障のあり方につきましては、それぞれの時代状況、また国際情勢を踏まえ、さまざまな国民的議論があり得るものと考えております。
 ただ、日本が、核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませずという非核三原則は堅持することにつきましては、これまで歴代内閣が累次にわたって表明をされてきておりますのは御存じのとおりです。政府といたしましては、今後ともこれを堅持していく立場に変わりはございません。
 また、法律上も、原子力基本法によって、我が国の原子力活動は平和目的に限定されておりますのも御存じのとおりです。さらに、我が国は、核兵器不拡散条約、通称NPT上の非核兵器保有国として、核兵器の製造や取得等は行わない義務を負っておりますというのも御存じのとおりで、このような点から見ましても、日本が直ちに核兵器保有するようなことはありません。(拍手)

国会会議録検索システム

このように、日本が核兵器保有するためには、国内法的には原子力基本法の改正、国際法的にはNPT からの脱退を行う必要があります。