ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

西洋史研究会大会第一日目:自由論題発表

この日は、西洋史研究会大会が行われたので、東北大学に行って来ました。一日目のこの日は、自由論題発表が行われました。

最初に発表したのは、高千穂大学の岡田秦介先生で、「ヘレニズム期クレタ社会と牧畜−クレタ東部を中心に−」という論題でした。クレタ島は、農業に向かない非常に山がちな地形だったので、チーズ生産などの牧畜業が経済的に非常に重要だったそうです。中世にも、トルコ、イタリアなどに大量に輸出していたそうです。そのため、牧畜を通じて、ヘレニズム期のクレタ東部の社会経済的・政治的背景を、明らかにしようとしたそうです。先生は、isopoliteia 協定碑文群を史料として用いて、当時社会的エリートが大規模牧畜を営み、彼らが家畜を増やしすぎたために、公有地を荒廃させた、そしてそれにより、公有地に依存していた中小家畜所有者、あるいは当時の社会保障制度であった共同食事制度の財源に損害が与えられ、社会的緊張とエリートに対する反感が生じた。しかし、その対処として、内部での制度改革は行われず、外部の資源を獲得しようと、軍事的膨張が行われたことを明らかにしたそうです。

用いられた史料の分量は非常に僅かだったのですが、そこからこのようなテーゼを作り上げるのだから、古代史研究者の史料の読み込みは凄いものがあると思いました。また、レジュメは見出しだけしか書かず、史料も原文だけしか載せず、モニターに映したパワーポイントを中心に発表していました。

二人目の発表者は埼玉大学の鈴木道也先生で、「『フランス大年代記』写本の普及とナショナル・アイデンティティ−中世歴史叙述の「間テクスト性」について−」という表題でした。先生は、最初にテッサ・モーリス・スズキやクリステヴァを引き、間テクスト性という概念が中世年代記研究でも重要視されており、先生もそのような問題関心に沿ってフランス大年代記の成立について検討したそうです。間テクスト性というのが何か、私には今一つ良く分かりませんでしたが、クリステヴァによれば、「どのようなテクストも様々な引用のモザイクとして形成され、テクストはすべて、もう一つの別のテクストの吸収と変形に他ならない」という考え方が、相互テクスト性=間テクスト性だそうです。端的に言えば、全てのテクストは、コピペで作られるという感じでしょうか。そのため、この発表でも、フランス年代記の様々な版が、過去のどの年代記をコピペして書かれたのかが、検討されていました。

普遍年代記であったラテン語年代記が14世紀にフランス語に翻訳されたときに、フランス王に関係する記述ばかりになったり、さらにその後の年代記で再びラテン語年代記からの記述が復活したり、フランドル年代記の記述が使われたりしたそうです。この変遷が、非常に細かく検討されていたのですが、残念ながら私は、その変遷がどのように意味づけられ、それがどのようにナショナル・アイデンティティーと関わるのかが良く分かりませんでした。

先生は、レジュメは詳細に作っていましたが、重要な部分は、パワーポイントで表示するという感じでした。パワーポイントの背景の画像が、古い羊皮紙のような感じで、このような素材はどうやって手に入れるのだろうかと思いました。

三番目の発表者は、京都大学大学院博士課程の高田茂臣氏で、「ハンガリー資本主義像の再検討−農業大国から先進工業国へ−」でした。これまで、近代ハンガリーは、農業中心の後進国だと見なされたが、実は、他の西欧諸国とは別のかたちでの産業革命ハンガリーでは生じたそうです。ハンガリーは、産業革命で重要視された繊維工業は未発達で、穀物、家畜、木材、石炭などを主要な輸出品とする国でした。しかし、ハンガリーでは、豊かな穀物生産を背景として、製粉業が発達したそうです。この工場制製粉業は、世界第二位の生産規模で、ハンガリーでは、製粉業に携わったガンツ社が、さらに自主技術生産で、発送電気器や電動機、電動鉄道、電球などの強電技術の分野を中心として世界のトップレベルに発展するなど、製粉業を足がかりにして、産業革命が進行したそうです。また、高等技術教育機関と企業が産学連携を行うなど、教育も、産業の発展に寄与したそうです。そのため、ハンガリーは、従来言われていたのと異なり、工業国としてかなり高い技術水準にあったということです。

この後、懇親会があったようですが、参加費が6000円と大変高額だったので、残念ながら私は参加を諦めました。