ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

再洗礼派図書館「フリードマン榊原ライブラリ」見学レポート

方南町にあるメノー派教会には、「フリードマン榊原ライブラリ」が併設されています。これは、アメリカのメノー派研究者であったロバート・フリードマンから寄贈された蔵書と日本の再洗礼派研究者であった榊原厳の蔵書を集めた図書館です。おそらく、日本で最も再洗礼派関係の資料が集積されている図書館であるということで、3月15日土曜日の午前中に再洗礼派に関心のある研究者で見学ツアーをしてきました。

この図書館は、宗教改革関係の研究者にはほとんど知られていないようで、行ったことがあったのは私だけで、他の方は初めて訪れたそうです。しかし、どこで存在を知ったのか分かりませんが、この図書館にやって来る人もおり、この間もアーミッシュのことを研究している大学院生がやって来たそうです。

この図書館はいつもは閉まっており、我々はこの図書館を管理しているメノー派の牧師の方と待ち合わせて、案内してもらいました。しかし、この方は方南町に住んでいるわけではなく、わざわざ電車で2時間かけて来たそうです。方南町の近くに住んでいるメノー派信徒は余りいないようで、教会に人が集まるのは礼拝式のある日曜日くらいなのだそうです。そのため、訪問する際は、日曜日の午後が一番都合が良いようでした。

図書館は、普通の小さな平屋の家屋に本が置かれているという感じです。蔵書はカード検索は出来ますが、電子化されていないので、ネットで検索することはできません。また、資金や人手が足りないそうで、新しい蔵書の購入は行われていないそうです。

私は、以前来たときは、ミュンスター再洗礼派関係の本しか見なかったのですが、今回はそれ以外の本もつらつらと眺めていました。個人的に非常に関心があるのは、様々な時代の様々な言語の「殉教者の鑑」が置いてあったことです。「殉教者の鑑」は1660年に出版された、再洗礼派やメノー派殉教者の伝記集です。*1メノー派にとっては聖人伝のような書物なので、この図書館にもオランダ語、ドイツ語、英語版の「殉教者の鑑」がありました。また、19世紀に出版された革の装丁がしてある豪華な版もあり、色々なバージョンを見ることが出来て面白かったです。

また、個人の特注による装丁がされ、留め金がついたような賛美歌集などの稀覯本も沢山所蔵されていました。

また、セバスチャン・フランクの「年代記 Chronika」のファクシミリ版も、私はこの図書館で初めて見ました。この「年代記」は、異端、再洗礼派、心霊主義者たちこそが真の信仰者であるという観点から、通常の正統と異端を反転させた歴史著述で、ロートマンも利用するなど後世に多大な影響を及ぼした著作です。ファクシミリ版なので非常に読むのが大変そうですが、非常に面白そうなのでいずれ読んでみたいという気持ちはあります。

また、日本の研究者から論文の抜き刷り修士論文などが送られてくることもあるそうです。そのため、もし再洗礼派関係の論文を執筆したり、著書を出したときには、ぜひこの図書館に抜き刷りや著書を寄贈することをお薦めします。

みなさん、専門や関心が違うので、わいわいと色々な本を眺めていました。中には、フリードマンや榊原氏のものらしい書き込みがしてある本もありました。古い本の中には、他ではなかなかお目にかかれないものも多いので、眺めているだけで楽しいものです。

結局2時間ほど滞在して、本を見せていただいたり、牧師さんから色々な話を聞かせていただいたりしました。本を借りる人はいませんでしたが、私はヘッセン再洗礼派の史料集を見つけたので、コピーさせていただきました。ちなみに図書館にはコピー機がなく、近くのコンビニでコピーをしなければならないので、大量にコピーする予定がある場合、小銭を沢山持って行った方が良いです。

図書館を出たときには既にお昼だったので、牧師さんもいっしょに近くの蕎麦屋で昼食を食べました。方南町教会は商店街の近くなので、近くに食べ物屋も多く、良い立地だと思いました。

図書館や蕎麦屋で、牧師さんから色々な話を聞かせていただきました。日本のメノー派約2000人くらいだそうです。方南町教会は、1950年頃にアメリカからやって来たメノー派宣教師によって作られたそうです。また、方南町教会は、私も会員になっているドイツのメノー派歴史協会とは全くコンタクトはないようです。日本のフッタライトである大輪コミュニティーとは交流があるようでした。また、メノー派の名前は特徴的だそうで、Yoder などはいかにもメノー派的な名前なのだそうです。

牧師さんにわざわざ遠方から来ていただいたことは心苦しかったのですが、色々な話をしたり、色々な本を見たりして、なかなか得難い経験ができたのではないかと思います。せっかくの充実したコレクションということで、みなさま是非十分に活用して、研究に役立てていただければと思います。

*1:インターネットで英語版の全文を読むことが出来ます。http://www.homecomers.org/mirror/contents.htm