ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

日本でネット上の学術交流がないのはアーキテクチャーの問題なのか?

はてなの取締役の梅田望夫さんが、インタビューで日本のネットの現状が残念だと述べたために大炎上して凄いことになっているようです。

 ただ、素晴らしい能力の増幅器たるネットが、サブカルチャー領域以外ではほとんど使わない、“上の人”が隠れて表に出てこない、という日本の現実に対して残念だという思いはあります。そういうところは英語圏との違いがものすごく大きく、僕の目にはそこがクローズアップされて見えてしまうんです。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/01/news045_3.html

私は日本の状況も英語圏の状況も良く知りませんがid:himaginaryさんの日記で、英語圏では超一流の経済学者がブログなどで議論を行っているのを見て、日本ではこういう超高レベルかつ実際の政府の政策決定に大きな影響を及ぼすような議論がネット上で行われたという話は、余り聞かないとは思います。

私が知っている範囲は極狭く、西洋史のなおかつ中近世史くらいしか知りませんが、日本ではそもそもブログを持っている研究者が少ないし、ネット上で学術的な議論が行われた例はほとんどないのではないかと思います。というよりも、ネットでの情報発信や情報集積も余り行われていない状況です。ただし、私は英語圏歴史学者がネット上で議論したり、共同で何かを行ったりしているのかどうかは知りません。

はてな匿名ブログで、「梅田望夫氏はなぜはてなで『文系のオープンソースの道具』を作り上げようとしないのか」という記事がありました。

梅田望夫氏の著書「ウェブ時代をゆく」を読んで氏が述べている「文系のオープンソースの道具」という物に期待してたんですよ。

でもそれを実現する為の片鱗がはてなのサービスで見られるかというと全然ない訳です。おそらく、それに一番近いと思われるはてなグループも大分前にリニューアルがあったという話を聞いたきり、音沙汰が無い。

http://anond.hatelabo.jp/20090619024143

この方は、アーキテクチャーによって、人文系研究者同士の学術的コミュニケーションが進むのではないかと考えているのだと思います。しかしもし実際に梅田さんが述べたように英語圏と日本でのネット上での学術交流のあり方に大きな違いがあるとしたら、英語圏と日本で使えるウェブサービスの種類に大きな違いがあるとは思えないので、違いの原因はウェブサービスのようなアーキテクチャーではないのではないかと思います。

それはメンタリティーや文化の違いなのか、学術に関心がある人の分母の違いなのか私には分かりませんが、おそらく道具自体は既にあるのではないかと思います。

たとえば、この間行ったケルン市歴史文書館支援のための署名集めは、メール以外にグーグル・グループを使って行われました。また実は他にもグーグル・グループを使って別のプロジェクトの準備を行っています。

http://groups.google.co.jp/group/japanese-solidarity-for-cologne-historical-archive

ちなみに、ケルン市歴史文書館支援のための募金も始まっています。文書館の一刻も早い復興のために、どうぞよろしくお願いいたします。

署名に引き続き、今後の復興を長期的に支援するために、日本でも寄付を募りたいと思います。ドイツへの送金の手間と手数料などを考慮し、国内での寄付の窓口となる口座を開設致しました。2009年末を目途に寄付を集め、ドイツ側へ送金したいと思います。

口座名と番号は

       ケルン市歴史文書館 救援の会 (代表 猪刈由紀 いかりゆき)
       三井住友銀行 新検見川支店 普通 0891254

となります。

目安ですが、一口1000円とさせていただきます。入金を確認次第、その旨メール(メールをご利用でない方の場合は郵便にて)でお返事差し上げますので、しばらくたってもこちらから連絡がない場合は、お手数ですがお知らせください。集まりました寄付は、上述の「文書館友の会」と「デジタル・ケルン歴史文書館」にそれぞれ半分ずつ送金することを検討中です。「文書館友の会」と「デジタル・ケルン歴史文書館」に送られた支援は、もっぱら史資料の修復のため 、またはデジタルアーカイブの運営・充実に充てられることになります。なお、ケルン市によって設けられた、もう一つの窓口もありますが、こちらは近隣住民に対する支援に向けられています。

送金先について、ぜひ皆様のご意見を呼びかけ人までお寄せいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

http://groups.google.co.jp/group/japanese-solidarity-for-cologne-historical-archive


このようにグーグル・グループを使えば、メンバー同士の情報共有、議論、ファイル共有だけでなく、情報発信も行うことが出来るので、個人的にはこれ以上何か必要な機能があるのかと思います。

個人的には、ネット上で研究者同士のやり取りが余り見られないのは、そもそも余り必要がないからではないかと思います。私は西洋史のことしか知らないので他の分野では違うのかも知れませんが、自分の専門に近い他の研究者と出会ったり、議論したり、いっしょに何かやりたいと思った場合、学会や研究会で会ったり、メールで個人的に連絡を取れば良いので、ブログなどを通じてコミュニケーションをする必要がありません。

そもそもブログを書いたり、自分のサイトを充実させることは、何の実績にもならないボランティアですし、専門的な学術情報を手に入れたいと思っている人は極わずかなので、それほどリターンが見込めるボランティアとも言えないだろうと思います。そのため、ブログも暇なときの気晴らしとかメモに使うくらいになるのは仕方がないのではないかと思います。

逆にもし英語圏で、ネット上で研究者同士のコミュニケーションが活発に行われ、集合知が生まれる場として機能しているならば、その方が不思議なような気もします。その場合、英語圏でそのようなコミュニケーションが成り立たつ条件を実証的に検証してみると、日本で成り立たない理由も分かってくるのではないでしょうか。

とは言え、個人的には、専門が違う人と出会うことは現実社会だともの凄く難しいので、専門が違う研究者が偶然出会いいっしょに何かを行うことができる、研究者や学術に関心がある人のための出会い系サイトができるとありがたいとは思います。