ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

インターネットを学術目的で活用するために

昨日までドイツに資料調査に行ってきました。本来の目的は、下ライン地方の再洗礼派に関する史資料の入手と文書館での史料調査だったのですが、その際にドイツにいる様々な研究者から援助していただきました。その一環でボンに行った時に、id:narrenstein さんに念願叶いお会いすることができました。この時二人でかなり長い時間色々な話をして非常に刺激的だったのですが、その際に話題の一つとして出たのが、日本の西洋史学会がインターネットをどのように活用するかという問題です。

正直現状では日本の西洋史学会は、インターネットをほとんど活用できていないし、活用しようという意欲のある人も余り見あたらないと言う感じはします。しかし、たとえば西洋史研究者が全員必ずチェックするようなポータルサイトがあれば、情報流通が非常に効率化され、学術情報の流通や研究者間のコミュニケーションが効率化されると思います。ただし、そのような大規模なサイトを個人レベルで運営するのは不可能なので、何らかの学術機関、理想を言えば文部科学省が予算を出し、運営を行うしかないのではないかと思います。

しかしインターネットで学術情報をいかに流通させるか、あるいは研究者間のコミュニケーションをどのように促進させるかを考えると、やはり適切なアーキテクチャーの設計が必要だろうと思います。このあたりは所詮西洋史研究者個々人は素人ですから、プロの助けを借りながら設計を行うしかないと思っています。そのため個人的には、Academic Resource Guide (ARG) などを通じてその道の専門家たちとお近づきになりたいと思っています。この間仙台で「第4回ARGカフェ&ARGフェスト@仙台への招待」が開かれたので、私もぜひ参加し、何か話したかったのですが、ドイツ渡航直前でどうしても時間が取れず参加できなかったのは本当に残念でした。何らかの機会に、ぜひ参加したいと思っています。

海外におけるインターネットの学術利用では、やはりH-NET が非常に有名だと思います。私は書評サイト程度にしか活用できておらず情けない限りですが、インターネットによる学術情報配信、研究者同士のコミュニケーションの促進の双方を考える上でもお手本になるサイトだと思います。

http://www.h-net.org/

杉田米行さんがARGの「羅針盤」で、H-NET について紹介をしてくれているので参考になります。また自分の研究をいかに色々な媒体を通じてアピールするかについても書かれているので参考になります。

http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/ARG/compass-022.html

また、こちらの「H-NET」とは何かという文章も参考になります。

http://sugita.us/HNET.doc

杉田さんは、『インターネットの効率的学術利用―情報収集・整理・活用』という本を書いているので、こちらも参考にしたいところです。


また、id:narrenstein さんも、西洋史関連の学術活動に使える様々なインターネットサイトを紹介するような記事を書きたいとおっしゃっていたので、もしご興味のある雑誌編集者の方がいらっしゃれば、ぜひid:narrensteinさんに原稿依頼をしていただければと思います。

個人的にはインターネットは、研究者同士のコミュニケーションというよりは、学術情報発信にとってより有益ではないかと思っています。現在では極めて狭い範囲の研究者間でしか流通していない多くの情報が手軽に、なおかつ包括的に入手できるようになれば、西洋史関係の情報を必要としている研究者サークルの外側の人達にも情報が届きやすくなるし、それによって日本の西洋史学会がこれまで蓄積してきた研究成果が、社会に還元されやすくなるのではないかと思います。

個人的には、日本の西洋史学会もアテンション・エコノミーでいかに勝ち抜いていくかを考えなければならないし、そのために必要な手段を講じていく必要があると思っています。そして低コストで情報配信できるインターネットは、人々のアテンションを奪い合う戦いで重要な役割を果たすメディアだし、戦場そのものだとも思います。

まだそれほど顕在化していないと思いますが、このようアテンション・エコノミーでの勝敗は、長い目で見た場合、予算やポストの配分といった現実的な場でのリソース配分を次第に左右するようになっていくのではないかと、私などは危惧しています。

そのため、今後の研究環境を考える上で、少しでも多くの人に西洋史の学術情報と成果を知ってもらい、日本の社会や学術全体の中での意味をアピールする手段が必要であり、その強力な手段としてインターネットが使えるのではないかと私は思っています。そのために自分でも、少しでも何かできないか考えなければならないし、何よりその考えを実現させていかなければならないと思っています。しかし、特に若手研究者の中には、私よりも遙かに情報リテラシーが高い人も多いと思うので、そのような方にも色々と考え、適切な措置を講じていただきたいと思っています。