ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

『neueWut』

日本も衆議院選挙で盛り上がっているようですが、こちらももうすぐ連邦選挙があります。CDU-CSU 連合が過半数を確保するのか、まだ予断を許さない状況ですが、極めて高い確率でCDU 党首のアンゲラ・メルケルが、ドイツ初の女性首相に就任することになると見られています。

選挙に合わせてなのでしょうが、今週一週間だけ、Cinema というミニシアターで、『neueWut (ノイエ・ブート 新しい怒り)』というドキュメンタリー映画が上映されています。この映画は、Martin Keßler という監督が撮った、2003年からの失業手当、社会保障改革(というか削減)であるHartz IV (ハルツ4)に対するデモや、Bochum のOpel のリストラに対するストライキの模様を描いていた映画です。

この映画は、入場料が自ら選べるようになっていて、自分の経済状態に合わせて、2ユーロから6ユーロまでを選ぶようになっています。面白い試みですが、まるで儲ける気が感じられない企画なので、おそらく回収が容易な低予算映画なのだろうと思いました。

土曜の夜だというのに、客はたった3人しか来ておらず、この問題に対する人々の関心の無さを感じます。

映画は、全てビデオ撮り、それもおそらく業務用のデジカムではなく、民生品を使っていると思われます。そのため、気分はでっかいテレビを見ているという感じでした。これなら、制作費は安く上がるだろうと納得しました。

内容は、マグデブルクやベルリン、ライプチヒニュルンベルク、フランクフルトなどで行われたデモ行進の模様、学者や政治家、失業保険受給者へのインタビューなどで構成されています。全体的な構成は、特にはっきりしておらず、デモや反対活動の裏側や参加者の気持ちを、そのまま出したという感じでした。

この映画の主な舞台は、マグデブルクとベルリン、つまり旧東ドイツの都市です。ドイツでは、2004年に連日ハルツ4に対するデモ行進が行われましたが、デモが盛り上がったのは、主に旧東ドイツの諸都市です。というのは、長期失業者が多く、失業率が高く、生活保護の受給者が多いため、ハルツ4は、主に東ドイツの人々の生活を直撃するからです。

逆に言えば、旧西ドイツでは、デモは余り盛り上がらなかったと言うことです。旧西と東には、現在も、埋めようのない大きな格差が残ったままです。

個人的に見ていて面白かったのは、ニュルンベルクのデモ行進の場面です。マグデブルクやベルリンのデモ行進の時の警備は、それほど厳重ではなかったのですが、ニュルンベルクの警官は、「ここは戦場か?」と思うほどの重武装に身を固め、路上で片っ端から持ち物検査をし、デモ行進の進む道を、鉄柵で封鎖していたのです。

日本の場合、デモ行進では警察官がかなり直接的に妨害をするらしいので、それと比べるとマシなのでしょうが、それにしても端から見ると滑稽なほどの厳戒態勢でした。この厳格な感じは、ドイツで最も保守的な州で知られるバイエルンの都市っぽいなと、物々しいデモの場面を見ながら感じました。

また、面白かったのは、最初は毎週月曜日に、マグデブルクで定期デモ行進を行っていた失業者たちが、最後には、自分たちで政党を作ってしまったことです。デモなどの活動を続けながら、やはり議会の外だけで活動しても限界があると感じ、議会でも活動しようと政党を立ち上げたようです。

ただし、このような背景に、組織も何もない党は、吹けば飛ぶような弱小政党でしかなく、そもそも議会には議席を持つことは出来ません。それでも、もし政府の政策や、議会の法案に影響力を与えたければ、国会で議席を持つか、議員に対しロビーイングをするしかないので、結局、単なる感情の発散だけではなく、現実的に何かを変えようとした場合、政治への直接参加は、選択肢に入ってこざるを得ないのだなと、彼らの姿を見て思いました。

現在の政権党である社会民主党SPD は、ハルツ4などの改革で、大きく国民の支持を失い、地方選では連戦連敗をして、現在に至ります。ただ、SPD に失望した人々がどこに投票するかと言えば、大方はキリスト教民主同盟CDU です。しかし、CDU が、SPD よりも遙かに厳しい改革を行うことは、ほぼ確実で、おそらく今失業しているような貧しい人たちは、ハルツ4が可愛らしく思える「痛みを伴う構造改革」で、より痛い目にあることになるだろうと思います。

結局、SPD でもCDU でも、従来の社会民主主義的な政策を、新自由主義的な政策へとシフトさせることは変わりません。そのため、景気を一向に浮揚させることが出きず、失業者を増やすだけのSPD よりも、CDU に期待がかかるのでしょう。

働く気はあっても職はない、給料は下がるが労働条件は悪くなると言うのが、ドイツの状況ですが、これは、多かれ少なかれ日本にも共通するところだと思います。成長期を過ぎ、次第に衰退していく社会に生きるというのは、こう言うことなのかということを、この映画を観ながら感じていました。我々の社会は、今後もまだしばらく下り坂が続きそうです。ドイツでは、それに対するプロテストは、今後ますます高まるでしょうが、果たして日本ではどうでしょうか。