ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

無駄な努力か、それとも・・・・

相変わらず市立文書館で延々と租税記録を読んでいます。私はまだ租税記録という史料の性格について十分な知識がないので、分からないことも多く、この史料をきちんと使いこなすには、まだ大分修練が必要なようです。ていうか、度量衡ややこし過ぎ!!

しかし、これまで二次文献で間接的にしか知らなかったことを、実際の史料できちんと確かめられることは、かなり大きいです。ただ、租税記録を見ていて思うのは、租税記録は、他の市区や他の年の記録とつき合わせながら読んだときに、その真価を発揮すると言うことです。

ミュンスターには、Leischaft(ライシャフト)と呼ばれる行政単位があり、租税記録は、ライシャフトという市区単位で残っています。この残存状況は、各市区毎に全然違います。

  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Aegidii-Leischaft), Nr. 1, 1539, 41-58, 60, 68, 71, 72, 75, 78, 82, 83, 85, 86.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Aegidii-Leischaft), Nr. 2, 1590-99.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Jüdefelder-Leischaft), Nr. 1, 1540, 48, 55, 71, 72, 75, 78, 83, 85, 89, 91, 93, 96, 98.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Lamberti-Leischaft), Nr. 1, 1548, 57, 71, 75, 82, 89, 91-94, 97, 98.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Liebfrauen-Leischaft), Nr. 1, 1548, 55, 57, 60, 67, 68, 71, 72, 78, 82, 83, 85, 89, 90, 93, 94, 96.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Ludgeri-Leischaft), Nr. 1, 1596, 1603, 1604-09, 11/12.
  • StdAMs, Ratsarchiv, AVIII Nr. 259 Schatzungsregister (Martini-Leischaft), Nr. 1, 1578, 90, 91, 93, 94, 96-99.

Ludgeri市区とMartini市区の租税記録の残存状況は非常に悪いので、実は、ミュンスターの成人人口がそれなりに正確に分かるようになるのは、ようやく16世紀末のことです。1591年から96年の各市区の租税記録を使って人口を再構成したLethmate の研究*1でも、分からない部分が沢山あるので、その部分は、後世の数字を使って補ったりと、かなり危ない橋を渡っています。

しかし、Ludgeri、Martini市区を除けば、16世紀半ば以降は、かなり記録が残っているので、ここからかなり緻密に、人の転入転出、死亡、経済状況、結婚、奉公人の出入りなどが分かります。また、長く同じ市区に住んでいる住民に関しては、だいたいの年齢も推測できそうです。

私が現在読んでいる1591年のLamberti市区の租税記録は人頭税の記録なので、個々人の財産状況は良く分かりませんが、その代わりに租税免除される困窮者含めて、市内に住む成人のほとんどが分かるので、市の下層民の比率をかなり正確に割り出すことが出来ます。

本当は、これらの成果を再洗礼派の時代と比較したりしたいところですが、ミュンスターは、再洗礼派統治期の後人口の大半が入れ替わるなど、もの凄い変化があったので、同じ都市でも、後世のデータをほとんど使うことが出来ないのは困りものです。そのため、他都市の数字なども含め、広範なデータを揃えて、当時のドイツの中規模都市の一般的傾向まで押さえないと、再洗礼派時代以前のミュンスターに関しては、何も推測できないのです。

しかし、本来はミュンスター再洗礼派研究のために読み始めた租税記録ですが、だんだん脱線気味というか、16世紀後半の都市住民の社会構造分析そのものが面白くなってきてしまいました。読めば読むほど疑問が沢山出てくるし、その疑問を解決するためには、もっともっと沢山の租税記録を読まなければならないと言う悪循環で、やばいなあという感じですが、面白いので止まりません。ていうか、とりあえず、各市区の記録2つか3つずつくらいは、読まないといかんだろうと思っています。時間的には厳しいところですが。

っていうか、成果が上がるかどうか全く分からないミュンスター再洗礼派研究より、租税記録を片っ端から読んで、16世紀後半から17世紀初めにかけての都市住民の財産階層とか、人口構成をテーマにして博士論文を書いた方が、よっぽど手堅いんですよね。データ揃えて、きちんと分析すれば、文句の付けようがない成果が上がるわけですから。ミュンスターに関しては、まだ誰もやっていないので、こっちでも(少なくとも郷土史家の間では)非常に評価されると思いますし、何より今後末永く(それこそ、100年単位とかで)大いに役立つ基本データを提供することができます。また、こっちの方が明らかに楽で、早く論文書けそうですし、良いことづくめのような気もします。*2

しかし、もう文書館で史料読んでいる時間が余りないので、困ったところです。

*1:Lethmate, Franz, Die Bevölkerung Münsters i. W. in der zweiten Hälfte des 16. Jahrhunderts, Münster 1912.

*2:データ入力の手間は、膨大な一次史料や二次文献を読む手間と比べれば、全然たいしたことがないというのが私の印象です。文献読みにはキリがないのに対し、データ入力は、1ヶ月であれ、1年であれ、作業してれば、そのうち終わるので。