ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

後藤久『西洋住居史』彰国社

西洋住居史―石の文化と木の文化

西洋住居史―石の文化と木の文化

ヨーロッパの住居の歴史を、古代から現代まで描き出すという本です。私がヨーロッパを旅している間疑問に思っていた、ラテン諸国とゲルマン諸国の都市建築の違いが、ローマの集合建築を引き継いでいるかどうかによると分かり、大変興味深かったです。

ローマではお金持ちが大きな建物を建て、異なった階層の人々が間借りし、同じ屋根の下に住むことが普通だったそうです。そして、ローマの文化を受け継いだイタリアやフランスの諸都市では、その後も異なった階層の人々が、同じ建物に住んでいたそうです。しかし、ローマの伝統を受け継がなかった、アルプス以北のヨーロッパの諸都市では、異なった階層の人々は、別々の家に住んだそうです。具体的には、ラテン圏では、同じ建物の階によって住む階層が違うのに対し、アルプス以北では、間口の狭い細長い家屋の上から下までを一つの家族が使うのが常だったそうです。

また、住居の構造だけでなく、その象徴的意味についても解説してあるので、そのような観点からも、興味深い記述が多かったです。

惜しむらくは、著者の専門のせいなのでしょうが、中近世の記述がイギリスにほぼ限られてしまったことです。また、やはり貴族の住居の記述が多く、私が最も関心のある中近世ドイツの平民の家屋については、ほとんど分かりませんでした。

とは言え、南北ヨーロッパの文化の違い、あるいは住居の構造の機能、及び象徴的意味についての興味深い考察にあふれた、コンパクトですが内容の濃い本でした。

しかし、研究者でなくても、ヨーロッパを旅して回る人は、この本一冊読んでおくと、建築を見る際の理解度が全然違うので、旅が百倍面白くなること請け合いです。