ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

経済格差が拡大するアメリカで、何で民主党支持が広がらないのか?

竹中正治*1「米国の拡大する所得格差と政党選択のねじれ現象〜所得格差の拡大はなぜ民主党への支持を増やさないのか?〜 」 (socioarc 経由)


このレポートは、長い間アメリカにおいて見られた所得格差拡大と再分配をより重視する民主党支持の正の相関関係が、1980年代以降見られなくなった理由を探っています。

旧来は、「政治的幻惑説」「経済的上昇期待説」「政治情報格差説」などによって、説明が成されてきたそうですが、今年7月にDuke 大学のJacpb L. Vigdor 教授によって発表された論文において、「相対的所得比較」を用いた説明がなされたそうです。

Vigdor 教授の選挙分析モデルは、「自分の生活水準に対する個人の満足度は、個人の絶対的消費水準のみではなく、他者と比較した相対的消費水準にも依存する度合いが高い」という認識から出発している。このように考えた場合、所得再分配政策に対する有権者の支持は、その絶対的所得水準のみならず、「比較対照集団」、すなわち実際に自分と見比べる相手との相対的所得水準の影響を受けるはずである。

比較対照集団が自分より高い所得を得ている場合、有権者所得再配分政策を支持する確率は高まる。比較対照集団の所得水準が自分と同程度である場合、所得再分配政策は有権者の関心を引かない。(中略)

近年の諸研究によると、個人は比較対照集団に同一地域内の身近な人々を選ぶ傾向がある。この場合、同一地域内の所得分布格差が大きい地域では所得格差が強く問題視される。一方、所得分布が均質な地域では、所得格差はあまり問題にならない。

Vigdor 教授の研究によると、平均所得水準が低いにもかかわらず共和党を支持の多い諸州の社会経済的特性は、こうした所得再配分政策を支持する動機が働きにくい経済環境に合致する。つまり、これらの諸州には大規模な貧困層ないし富裕層が不在で、比較的均質な所得分配構成ができている、あるいは、低所得層もかなり存在するが、それ以上に下位中間所得層が多い社会構成を示しているという。(中略)

また、全国的に見ると、都市の近郊圏では所得階層別の地域的な住み分けが 1990 年代に進んだ。この結果、全国レベルでの所得格差の拡大とは反対に、居住地区内部での所得水準の均質化が進んだ。(中略)

ただし、Vigdor 教授は「相対的所得格差のみに有権者は反応する」と主張しているのではない。「絶対的な所得格差と相対的所得格差の双方に有権者は反応する」しているのである。


つまり、人間は周りの人と自分を比べて格差を感じるので、周りに同じくらいの経済水準の人しかいないと、余り格差を感じず、格差是正のための再分配政策を必要だと感じない。だから、地域的な住み分けが進んだ結果、経済格差の拡大と民主党支持の後退という、一見すると非合理なことが起きたということになるのだそうです。

*1:東京三菱UFJ銀行ワシントン駐在員事務所所長