ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

集合行動研究におけるマクロとミクロの接合

集合行動の社会心理学 (ニューセンチュリー社会心理学)

集合行動の社会心理学 (ニューセンチュリー社会心理学)

この本では、フランスにおけるル・ボンの群衆心理学、タルドの社会的相互作用論、アメリカのパークの社会的感染モデル、ブルーマーのシンボリック相互作用モデル、キリアンとターナー創発規範アプローチ、スメルサーの価値付加理論、マッカーシー、ゾールド、ティリー、マックアダム達の資源動員アプローチ、マックフェイルたちのS.I.B.アプローチなどの、主な集合行動理論が概観できます。

ここでの集合行動とは、人が集まって行う行動全般というよりは、群衆行動や社会運動などの社会における例外的な行動であると見なされることが多いようです。そのため、都市における騒擾や宗教、社会運動を扱う私にとっては、今後何十回となく参照し続けなければならない本になると思います。

集合行動研究においては、方法論的個人主義が採られる場合が多いようです。そのため、個人を集合行動へと動員する心理的過程というミクロな動きと、多くの人々によって行われる集合行動を繋ぐことが、理論的に非常に重要になります。スメルサーが特にこの問題に積極的に取り組んだそうですが、問題も色々あり、今一つ成功はしていないようです。

ただ、この本を読んでいて疑問に思ったのは、初期の群衆研究ではヨーロッパの研究も紹介されていましたが、その後はアメリカの研究しか紹介されていなかったことです。その後ヨーロッパでは、集合行動研究がほとんど行われなくなったのか、それともアメリカの研究の影響下に入って独自の理論を発展させられなくなったのか、単に紹介されていないだけなのか、気になるところです。

もう一つは、パーソンズルーマン、ギデンズなどの社会理論において、集合行動がどのように位置づけられているのか、そして、それらの一般理論が集合行動研究とどのように関わっているのかについても、知りたいと思いました。


個人の心理的過程を考えるために非常に役に立つ本が、最近色々と出版されているように思います。とりあえず、以下の二冊は、早々に読んで、自分の研究でも、これらの考え方を間接的に使っていきたいと思っています。

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか

誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか

 本書では価値判断に指数割引ではなく、双曲割引が重要であるというのが一貫した主張で、この原理であらゆる現象を快刀乱麻を断つごとく一刀両断する。双曲割引というのは、現在からみて未来を価値を割り引いて価値判断する際に、双曲線で近似できるとする評価基準である。曲線は指数曲線よりも立ち上がりが急な曲線(より撓っている曲線)であるため、価値がより低くても手近にあると将来手にできる価値よりその時点では高く評価されてしまうという現象が起きてしまう。これは経験的にもよく起こることだ。
 この本を読んで面白かったのは、意志という現象を、この双曲割引による複数の価値評価の闘争と協調の結果であるとしていることだ。こういう観点に立てば、単純な価値評価システムから複雑な意思決定機構へと進化する経路への見通しがすっきりする。

『誘惑される意志』烏有亭日乗

ハッピー・マニア』の重田さんの自滅的な行動も、おそらくは、この双曲割引の理論で説明ができるのでしょう。とにかく、集合行動研究でこれまで蓄積されていた個人の心理過程の理論を、行動経済学認知心理学の理論を用いて、さらに改定していくことは必要だろうと思います。また、生物学的特質に起因する人間の心理過程は、時間や場所、文化に左右されないものだと見なせるので、そのような理論は、歴史学でも通用する、あるいは通用させなければならないだろうと思います。歴史学は、広範な時代の人間を扱っているので、これらの研究に成果をフィードバックし、理論のさらなる精緻化に寄与する義務があるだろうと思います。私は、現在はまだ歴史学研究の徒弟ですので、歴史学におけるミクロな実証研究のみを行っていますが、行く行くは自分の研究を、よりマクロな問題に接合していく必要があると考えています。