ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

医療人類学の仮定法化

「伊藤智樹の書評ブログ」の「『医療・合理性・経験――バイロン・グッドの医療人類学講義』バイロン・J・グッド(江口重幸・五木田紳・下地明友・大月康義・三脇康生訳)(誠信書房)」で「仮定法化」という面白い考え方について紹介されていました。

彼の物語には、宗教的ないし神秘的な物語と、西洋医学的な物語とが混在しています。ある見方をすれば、彼に子を殺された精霊が犬の姿で仕返しをしたが、最終的には許してくれた、という物語として読めます。しかし、もし彼が明確にそう信じているなら、犬に吠えられたエピソードが失神と関係があるのかと聞かれたときに、「サル・クズ」の話などせずに「その通り」と答えそうなものです。また、彼は医師の存在をまったく軽んじているわけではなく、薬物療法を試すことにも同意したし、手術を念頭におき続けています。ケリムの発作は、この精霊との出来事以来おきていませんが、見方によっては、医師の処方した薬が効いただけではないか、という可能性も否定できません。いずれにせよ、ケリムの物語には、いろいろな読み方の可能性があるといえます。このように物語が決して一つの病いの説明に真実性を与えないことが、「仮定法化」と呼ばれていることなのです。