ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

ミュンスター再洗礼派事件を映像化したドラマ『キング・フォー・バーニング』(1)

実家から送ってもらった荷物が届いたので、早速原爆関係の本を読み始めています。今回は、本だけでなく、DVD も一枚送ってもらいました。そのDVD は、『キング・フォー・バーニング』というテレビドラマです。

この『キング・フォー・バーニング』(原題『König der letzten Tagen (終わりの日の王)』)は、1994年にZDF というドイツのテレビ局が、ミュンスター再洗礼派事件を題材にして作ったテレビの長編ドラマです。日本でも、歴史物の二時間ドラマスペシャルなどがありますが、そのドイツ版のようなものです。

私も、このドラマの存在のことは知っていたのですが、これまで見る機会はありませんでした。しかし、ドイツでも発売されていないこのドラマは、なんと日本でDVD になっているのです。そのため、本を送ってもらうついでにDVD も送ってもらったのです。

ちなみに、ドイツでは、発売されるDVD の種類は、日本と比べると遙かに少なく、ハリウッド大作以外の映画は、ほとんどDVD では発売されません。たとえば、日本でもかなり有名なドイツの映画監督であるヴィム・ベンダースの作品は、日本で多くの作品がDVD で発売されていますが、ドイツではほとんど発売されていません。そのため、ヨーロッパ映画ファンにとっては、ドイツよりも、日本の方がずっと環境が良いと思います。

このドラマのストーリーは、売春宿の主人であるヤン・ボッケルソンが、ミュンスターにやって来て、預言者を騙り、人々をペテンにかけて、王にまで登り詰め、そして破滅していくというものです。

この作品のドラマの軸になっているのは、ヤン・ボッケルソンと昔からの親友のセバスチアンの関係です。彼らは以前共に道化として諸国を回っていたのですが、一度別れ、偶然ミュンスターで再開を果たします。しかし、王になると言う自分の野望のため、神の言葉を偽り、鍛冶屋を殺し、人々をペテンにかけるボッケルソンを、セバスチアンは拒絶します。それに対し、ボッケルソンも彼に反論、後に投獄するなど、拒絶の態度を示しますが、それでも自分が窮地に陥ったときは、セバスチアンに助けを求めるなど、彼を精神的な支えにし続けています。

ボッケルソンを拒絶しようとするセバスチアンも、彼を拒絶しきることは出来ず、彼にそれとなく助言を与えたりします。つまり、このドラマは、この二人の友情が、紆余曲折を経つつも、最終的に失われることはなく続いていった、友情物語でもあります。

同時に、この物語には、エンゲレという再洗礼派女性が出てきます。彼女は、ヤン・ファン・ライデンの預言を聞きにミュンスターにやって来る途中、傭兵に捕まり、処刑されそうなところを、セバスチアンに助けられた女性です。彼女はセバスチアンといっしょにミュンスターにやって来ますが、ボッケルソンに反発するセバスチアンとは異なり、ボッケルソンを預言者として敬愛しており、最後には彼の妻の一人になります。このエンゲレをめぐる、ボッケルソンとセバスチアンの微妙な三角関係も、このドラマのストーリー的な軸になっていますが、こちらの方は余り上手く行っていないと思います。

この二つのストーリー的な軸は、史実には全く現れないところで、このドラマの完全なオリジナルです。やはり、ドラマでは、キャラクター同士の人間関係が重要になるので、新しいキャラクターを作り、彼らの関係を描くことで、このドラマに、ストーリー的な一貫性を持たせ、単なる出来事の羅列に終わらないようにしたのでしょう。

私が一番期待していた映像は、テレビドラマにしては、かなりがんばっていたと思います。中心部の街並みや城壁などは、ロケではなく、巨大なセットで作られています。セットの出来も悪くなく、16世紀の都市の雰囲気が出ていたと思います。建物や衣服の考証がどの程度されているかについては少々怪しいですが、当時の都市の雰囲気を想像する助けになるので有り難いです。

一本のドラマとして面白いのかどうかについては、何しろ私はこのテーマについては余り客観的に見られないので、何とも言えませんが、個人的には、純粋にフィクションとしてもそれほど出来の良いドラマではないと思います。

脚本は、ミュンスターでの出来事を全てヤン・ボッケルソンの独断の結果として描いており、事件を過度に単純にしているので、物語的な深みがありませんし、上述の友情、三角関係というストーリー上の軸も、次々起こる出来事に、一本芯を通すほどの強さはなかったと思います。また、非常に非現実的な描写が多いなど、ディテールの詰めが非常に甘いので、リアリティーも余りありませんでした。

テレビドラマならこんなものかと思わないことはありませんが、せっかく面白い題材を使っているのだから、もっと面白くなっても良かったと思います。とは言え、個人的には、我がミュンスター再洗礼派運動が、映像になったと言うだけで嬉しいので、見て損はなかったと思います。