ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

社会運動研究における基礎的な諸概念

社会は、個人個人を結びつける相互作用のシステムである(中略)全ての社会は、構造化した社会関係のなかで、その社会の成員たちが固有の文化に従って組織化されるという事実によって、一体的なまとまりを維持している。いかなる文化も、社会を欠いては存在できない。しかし、同じようにいかなる社会も、文化を欠いては存在できない。

アンソニー・ギデンズ社会学』第4版、而立書房、2004年、44頁

社会集団 social group, soziale Gruppe

社会学は、その成立の当初、その研究対象として漠然と人間の共同生活体を措定していたから、社会と集団とを特に区別することもなく、全体としての社会構成の特質、それを支える社会制度、および全体的な社会変動が問題とされた。ようやく20世紀に入る頃から、社会学の研究対象と方法は特化され、全体社会と区別された部分社会としての社会集団、さらに社会関係、社会的行為という微視的レベルでの考察が進んできた。そして最も基本的な単位である相互作用のネットワークのなかの結合的単位として、社会集団を捉える一般的な理解が生まれた。

(中略)

社会集団形成の基本的要件

  1. 継続的な相互作用
  2. 共同の集団目標の設定と協同
  3. 規範の制定による成員規制
  4. 地位と役割の配分
  5. 一体的なわれわれ感情に基づく成員連帯

『新社会学辞典』有斐閣、1993年、620頁

すなわち、社会集団は、小規模な社会であると考えることができるようです。しかし、規模の大小にかかわらず全て「社会」という用語で指し示すよりも、より小規模な社会を社会集団、複数の社会集団を包括する社会を「社会」と呼んだ方が、社会が成り立つ際の内部の階層制を直感的に理解できるので便利だと言えます。この社会集団と社会の関係は相対的なもので、16世紀のミュンスターにおいては、たとえばギルドを社会集団だと見なしたとき都市が社会、都市住民を社会集団と見なしたときには領邦が社会になり、最上位の社会は神聖ローマ帝国ということになるでしょう。現在では、国が最上位の社会でしょうか。

階層 social stratum, soziale Schicht

階層とは一定の社会的地位を共有する人々の集合体を意味する。階層という概念はソローキンによって、階級と区別するために作られた。階級が歴史的概念であって、階級間の敵対的な関係あるいは質的な相違を前提とするのに対して、階層は非歴史的・操作分類概念であり、社会的資源の配分または獲得の機会が量的に異なっていることを前提にしている。つまり、社会的資源の配分の量が階層を決める指標となり、階層区分は数量的変数によってなされることが多い。しかしそれはたんなる統計集団ではなく、同一階層に所属する人々は、同一階層に所属する人々は類似した状況とそれに対応する意識、態度、行動、生産様式をもち、他階層とは明確に区分できる存在だとされる。

『新社会学辞典』有斐閣、1993年、142頁

階層の代表例として、政治的資源を指標とした場合、経済的資源を指標とした場合が考えられます。他方、階層は、文化を共有する社会集団としての性格を持つ見なされています。しかし、ある全体社会の中で、政治的資源を指標とした場合と、経済的資源を指標とした場合では、階層の外延が必然的に異なります。他方、社会集団は、通常その外延は明確ですので、階層は必ずしも特定の社会集団と重ならない場合が考えられます。

たとえば、中近世都市における代表的な社会集団であるギルドは、政治的資源を指標にしても、経済的資源を指標にしても、その内部にそれぞれに異なった階層の成員を含んでいます。そのため、ある個人は異なった指標に基づく様々な階層に分類されると同時に、ある特定の社会集団に属すると見なされるということになります。ただし、ある個人は、必ずしも排他的にある一つに社会集団に属するわけではなく、たとえばミュンスター司教領領民、都市市民、某教区居住、某行政区居住、○○ギルド成員、××兄弟団成員、△△親族の一員など、複数の社会集団に多元的に所属していると考えられます。

その際に、では、ある個人がどの階層に属していると考えればよいのか、どの社会集団に所属していると考えれば良いのかという問題が生じますが、それついては、個人が、自分のもつ資源、そして個々の所属集団への帰属意識の強さ、あるいはそこから得られる利益を、状況に応じてその都度考慮して、思考、意志、行動するのかを推測しなければならないということになろうかと思います。

社会成層 scocial stratification

社会学者は、人間の社会で個人や集団のあいだに見いだす不平等について述べる際に、社会成層という言い方をする。(中略)個人や集団は、社会成層システム内での位置づけをもとに、格差のある(不平等な)かたちで報酬の入手機会を享受する。したがって、最も単純な言い方をすれば、社会成層を、さまざまな人間集団のあいだで構造化された不平等として位置づけることができる。

(中略)

歴史的に見れば、人間社会には、基本的な成層システムが四つ存在してきた。奴隷制カースト制、身分制、階級の四つである。

アンソニー・ギデンズ社会学』第4版、而立書房、2004年、354頁

社会成層という概念は、近世史ではほとんど使われない概念だと思います。その理由は良く知りませんが、おそらくは、近世社会が、身分、あるいは他の法的、経済的、政治的地位、あるいは名声の違いによって、社会の成員が様々に分断されていることが当たり前である社会だったからではないでしょうか。様々な違いがあるとが社会の本質を成す社会においては、不平等という価値的な含意を伴う社会成層という用語よりは、ある一つの指標に基づく単なる量的な違いを意味する階層という用語の方が、フラットで使いやすいと言えます。

ただし、宗教改革運動においては、聖職者の身分的な特権に、俗人、あるいは聖職者自身からも批判が集中したので、社会成層という概念を使うのも適切だと言えるのかも知れません。ただし、身分は、様々な社会的相違の単なる一要素に過ぎないので、やはり、様々な指標を自由に没価値的に使うことが出来る階層という概念の方が使い勝手が良いことは間違いありません。

階級 class, Klasse

階級は、まずはマルクス主義の立場から定義できる。すなわち、階級は特定の発展段階にある社会的生産において、生産手段の所有・非所有によって区別される。(中略)階級は、階級利害の同一性によって団結し、当の利害を実現するために運動する集団でもある。

『新社会学辞典』有斐閣、1993年、133頁

階層の一要素とも言える階級という概念ですが、ドイツ近世都市史においてはほとんど使われません。というのは、当時は生産手段の格差が、必ずしも階層化にとって決定的に大きな影響を持った指標だったわけではなく、他の様々な指標を考慮しなければならず、階層という概念の方が使い勝手が良いからです。


社会構造 social structure, Sozialstruktur

社会構造の概念も、抽象的・形式的には、社会というものを構成している諸要素が、どのように組み合わされ、関連づけられているかを示す概念であり、原理的には、人間の社会的行為過程に認められる全体的なパターンであると定義できる。したがってまず、集団や地域社会あるいは全体社会など、多様な範囲と規模、内容にわたって存続し、展開している社会的諸過程のなかに、何らかの斉一性、規則性、関連性が存在していることを前提として、当の社会システムを成り立たしめていると思われる、何らかの構成諸要素と、それらの諸要素の分布状態や、配置状態を確認することから始めなければならない。そして、それらの諸要素の関連状態、分化や統合あるいは相互依存性や均衡状態のみならず、決定=非決定、拘束、誓約、支配=従属、対立=葛藤などの諸社会関係のパターンが、総体的に把握された場合、それこそが厳密な意味での社会構造なのである。

『新社会学辞典』有斐閣、1993年、611頁

非常に包括的な定義です。歴史学において、ここで言う意味での社会構造を分析するとしたら、全体史になることでしょう。ここでは、機能主義と葛藤理論の双方が、社会構造分析に必要であると述べられています。ただし、以下のピーター・バークの著作で指摘された構造という考えは静的すぎると言う批判に対しては、この定義では対応できないように思います。

構造という概念に対する三つのアプローチ

  1. マルクス主義者のアプローチ。建築学的な隠喩である「土台」と「上部構造」で、土台である下部構造は経済的側面で考えられる傾向にある。
  2. 構造的機能主義のアプローチ。「構造」概念は、家族や国家、法体系などの諸制度の複合体として用いられる。
  3. クロード・レヴィ−ストロースからロラン・バルトまでの「構造主義者」と呼ばれる人々が、知や文化の構造やシステムにもっぱら関心を持ったものである。

(中略)

歴史家たちもまた構造という考えに反発し続けている。非難ははじめてのことではないが、マルクスブローデルの支持者たちは、決定論だ、人間を歴史の外においている、そして極端な場合には、時間の経過に沿った変化を取り上げずに静的な構造を研究しているという意味で「非歴史的」だ、と非難されてきたのである。この非難は大体誇張されたものではあるが、構造的なものを歴史的な分析と結びつけようという試みは、議論を必要とする問題を浮かび上がらせる。とくに、行為者個人と社会システムとの関係の問題、つまり決定論と自由の問題を明らかに浮かび上がらせるのである。

歴史学と社会理論』ピーター・バーク、佐藤公彦訳、慶應義塾大学出版会、160, 165頁

では、静的な構造だけでなく、社会の変化を考えるためにどうすれば良いかが、以前ご紹介した第五章で検討されています。

wichtigste Bereiche der Sozialstruktur einer Gesellschaft

  • die Bevölkerungsstruktur
  • das ökonomische System und damit die Formen der Arbeit und Produktion, der Bedeutung von Beruf und Erwerbsstruktur für die personale und allgemeine gesellschaftliche Entwicklung
  • das politische System und damit die Strukturen von Staat, Regierung Parteien, aber auch von Gesetzgebung und Recht für die Integration und Endwicklung des gesellschatlichen Systems
  • das System der Siedlungsformen, das in enger Wechselbeziehung nicht nur zu Struktur und Wandel des ökonomischen Systems steht, sondern auch zu den Formen von Freiheit und Öffentlichkeit (in der Stadt) und der sozialen Segregation und der damit gegebenen sozialen Ungleichheit.

Reinhard, Gerd (Hg.), Soziologie-Lexikon, 2. Auflage, München 1992, S. 559

つまり、人口構造、経済・労働・生産構造、政治・法構造、居住構造が、社会構造研究の重要な領域になるそうです。


では、社会を把握するためにどのような視座が用いられるかというと次の三つの理論的な取り組み方があるそうです。

近年の最も重要な社会的視座

1.機能主義

コント−デュルケームパーソンズ / ロバート・マートン

  • 機能主義は、社会とは、そのさまざまな部分が安定性と連帯性を生み出すために協調して作動する複雑なシステムである、と考えている。社会学とは、それぞれの部分どうしの関係を、また社会全体との関係を究明する必要がある。
  • 社会の習わしや制度の機能を研究することは、その習わしや制度が社会の存続にたいしておこなう寄与を分析することである。
  • 機能主義者は、社会を人間の四肢になぞらえ「有機体的類推」を行う。
  • 機能主義は、社会における秩序と安定性を維持する上で、「道徳的合意」の重要性を強調する。
  • 機能主義に対する批判:機能主義が分裂や葛藤、闘争を生み出す要因を軽視して、社会的凝集をもたらす要因を過度に強調している点。

2.葛藤理論

カール・マルクスマルクス主義

  • 機能主義者同様、社会内部での構造の重要性を強調し、社会が作動する仕組みを説明する包括的モデルを持つ。しかし、合意の強調ではなく、社会における分裂を重要視する。そのため、権力や不平等、闘争の問題に注意を集中させる。
  • 葛藤理論の論者は、社会内部での優勢な集団と不利な立場にある集団のあいだの緊張関係を調べて、統制関係がどのように確立され、固定化するのかを解明しようとする。
  • 多くの論者は、マルクス階級闘争モデルに依拠するが、一部の論者はヴェーバーの影響も受けている。ダーレンドルフは、階級だけでなく、権威や権力と結びつけて利害関心の違いを捉えた。

3.象徴的相互作用論

ヴェーバーとG. H. ミード

  • 機能主義と葛藤理論が構造を重視するのに対し、社会的行為論は、構造を形成する際に社会の成員が行う行為や相互行為により多く注目する。つまり、個々の行為者が、どのように行動したり、互いに他者や社会にたいして順応するかの分析に専念している。
  • ヴェーバーは、社会構造の存在を認めていたが、これらの構造が一人一人の社会的行為をとおして創出されると考えた。
  • ヴェーバーの影響は余り受けていないが、G. H. ミードが、象徴的相互作用論の起源となった。
  • 言語と意味への関心。人間は、互いに相互行為を行う際に、共有された象徴や理解を当てにする。なぜなら、人間は豊富な象徴から構成される世界のなかで生きており、人間どうしのほぼ全ての相互行為は、象徴の交換を必然的に伴うから。
  • 象徴相互作用論の論者は、日常生活での対面的相互行為にしばしば焦点を合わせ、相互作用が社会や社会の諸制度を創出する際に果たす役割を強調する。
  • 批判:社会の中の権力や構造と、それらがどのように個人の行為を束縛する働きをするのかという問題を無視している。

アンソニー・ギデンズ社会学』第4版、而立書房、2004年、38-41頁

これら三つの視座は、互いに排他的なものではなく、むしろ社会を分析する際に、相互補完的に用いるべきものだと言えると思います。個人を社会へと凝集させる要素、ある社会の中に潜在する諸対立や軋轢、ある構造・文化を内面化した、あるいは従属を強制された個々人が様々な事象をどのように意味づけ、行為に及び、その行為が社会構造の維持あるいは変化に影響を及ぼすかは、どれも検討を必要とする視座であるように思います。