ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

爆弾より受胎調節のほうが世界を変える

日々平安録さんのI・ブルマ&A・マルガリート「反西洋思想」新潮新書2006年6月の読書メモの中で、エマニュアル・トッドの説が紹介されていました。

 西洋とイスラム圏の女性の扱いの差は、何に起因するのだろうか。「帝国以後」においてトッドは、「風俗慣習を研究するのに慣れた人類学者に言わせれば、アングロ・サクソン・システムとアラブ・システムとは、絶対的対比関係になるのだ」といっている。かたや核家族個人主義的、こなた父系の拡大家族であるのだから、紛争をおこすようにプログラム化されているようなものなのだという。同じイスラムであっても、インドネシアやマレーシア、アフリカ大陸のインド洋沿岸地域のイスラム化された諸民族はアングロ・策論・システムとは対立関係にはならないのだという。つまり、対立は宗教に起因するものではないということである。

 トッドは基本的に世界は否応なしに近代化していくという立場で、たとえば、アフガニスタンにおいても風俗慣習の変化は進行してという。しかし、それはきわめてゆっくりしか進まない過程であるにもかかわらず、それを性急に軍事攻撃をしかけることによって変えようなどと試みることは、かえって西欧の女権擁護と思想と軍事的獰猛さが一体化しているとの信念を相手方に与えることになり、結果としてはアフガンの戦士の超雄性化したエトスとでもいうようなものに、高貴という印象を付与することにしかならないのだという。

 事実として、現在、イスラム圏においても少子化は進行している。それは教育の普及により女性が自分自身で子供を産むかどうか決めることになってきたことによるのであり、それによる少子化は父系的な伝統をいやでも壊していくことになるのだという。トッドによれば近代化の進行は、識字率が向上にともなう必然なのであるが、出生率が低下して、大衆が政治に参加するようになり、伝統の破壊により心性的故郷離脱の真理が生じる結果、一時的には混乱が生じ、移行期の暴力が生じる、という。今イスラム圏でおきている反西洋の動きは、心性的故郷離脱の結果の移行期暴力の現象なのであり、いずれ(といっても数十年後)には落着くものなのである。「今日アラブ・イスラム圏は最後の足掻きのように西欧との差異を劇的に強調してみせる。特に女性の地位について強調するが、現実にはイランやアラブの女性は受胎調節によって解放されつつあるのだ」というのがトッドの見立てである。爆弾より受胎調節のほうが世界を変えるということなのである。

トッドと言えば、以前猫屋さんのところで、名前を聞いたことのある人口学者ですが、面白い視点だと思います。確か、長子相続か均等相続かで、その国の文化が大きく異なるみたいな話だったと思いますが。思いもよらぬものが、案外その社会や文化を規定しているとは。マルク・ブロックが、フランスの耕地形態と共同体のあり方の関係を明らかにしてことを思い起こします。