ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

初期自己啓発本の背景にある世界観

やはり週末に休まないと疲れるようで、今日は疲れてだらっとしていた。ということで、午後はブック・オフと図書館に行き、初期の重要な自己啓発本を入手してきた。夕方に帰ってきてから、ペラペラめくっていた。

最初期の自己啓発本 S. スマイルズ著、竹内均訳『自助論』三笠書房・知的生きかた文庫、2002年(原著1858年)は、ざっと見た限りでは、自分が成功するためには努力や忍耐が必要だという心構えを説明した本であって、その背景に何か形而上的な世界観があるようには思われなかった。(冒頭には「天は自らを助くる者を助く」という格言が、「人間の数限りない経験から導き出された一つの真理」を示すものだと述べてはいるが。11頁)

しかし、その後に現れたニューソート系の自己啓発書では、人の思考こそが成功を導くという自己啓発成功哲学の基本的な考えの背景にある形而上的な世界観が明示されている。

1910年に出されたウォレス・ワトルズの『The Science of Getting Rich』(ウォレス・ワトルズ著、川島和正監訳『確実に金持ちになる「引き寄せの法則」』三笠書房・知的生きかた文庫、2008年)には、世界観を表す表現が冒頭からたくさん出てきている。
https://en.wikisource.org/wiki/The_Science_of_Getting_Rich

「この世界には、「金持ちになるための科学」というものが存在します。これは、算術や代数などと同じ、完璧な科学です。」(18頁)

彼は、「第4の秘密 金持ちになるための『基本原則』」という章で、以下のようなことを述べている。
「1 万物は、ただ1つの「思考する物質」が元となって造られている。この「物質」は原始の状態で、宇宙空間の隅々に満ちている
2 この「物質」の内部に抱かれた思考は、そのとおりの形を現実に生み出す。
3 人は、思考を「形のない物質」投影することで、造りたいと思っているものを現実に出現させられる。」(36-37頁)

宇宙は「思考する物質」でできているので、当然人間もその一部と言うことになる。「宇宙の万物を造り、万物に宿っている「知性のある物質」―つまり「神」は、あなたの中にも宿っています。」(42頁)

そのため、人間が思考したことがこの世界を造ることになる。そして、この世界での様々な出来事は、思考が生み出しているので、良いことも悪いことも人間の思考の結果と言うことになる。
「よくないことばかり考えるのは、自らをよくない状態にし、よくないものばかりを引き寄せることになるのです。
 逆に最高のものだけに目を向ければ、あなたは最高のものに囲まれ、最高の状態になっていくのです。
 私たちに内在する「創造力」は、私たちが常に注意を向けているイメージにわたしたちを導きます。
 私たち自身が、「思考する物質」であり、「思考する物質」は、常に自ら考えたものに形を変えるのです。」(65頁)

だからこそ、成功するためには、成功しようという意志を持つことが必要であり、そのような思考を持つための方法が17の秘密というかたちで説明されているのがワトルズの本である。

1917年に出版されたのが、チャールズ・F・ハアネルの『The Master Key System』である。(チャールズ・F・ハアネル著、管靖彦訳『ザ・マスター・キー』河出書房新社、2007年

ざっと見た感じでは、ハアネルの『ザ・マスター・キー』は、ビジネスでの成功だけでなく、思考をいかに使って様々な望む結果を手に入れるか、そしてその考えの背景にある世界観を説明した本のように思われる。

ハアネルもワトルス同様に、世界は一つの意識から成り、人間もまたその一部と見なしている。
「思考する「意識」は宇宙にたった一つしかなく、その意識が考える時、その思考は客観的なものになります。この意識はあまねく行き渡っているので、それぞれの個人の中にも当然存在しています。めいめいの個人は宇宙に偏在するこの全知全能の意識の顕現なのです。
 宇宙には「意識」はたった一つしかないので、必然的にあなたの意識は宇宙意識と同一だということです。言い換えれば、すべての心は一つなのです。この結論から逃れるすべはありません。」(26-27頁)

そのため、人間が思考したことは現実化することになる。良いことを意識すれば良いことが起こり、悪いことを思い浮かべれば悪いことが起こる。
「わたしたちの心の姿勢がパワー、勇気、親切心、共感といったもので彩られていれば、環境がそれらの思いに対応する状態を映し出すことに気づくでしょう。もし心がひ弱で批判的で、妬み深く、破壊的であるなら、、環境がそうした思いに対応する状態を映し出します。
 思考は原因、状態は結果です。ここに善悪の起源の説明があります。思考は創造的で、自動的にその対象と関わります。これが宇宙の法則、引き寄せの法則、原因と結果の法則です。」(130-131頁)

思考が様々な結果を生み出すために、自らの望む結果を生み出すために自らの思考を制御する必要があることになる。そして、『ザ・マスター・キー』では、そのような思考操作のやり方が24回にわたり説明されている。

このように20世紀初めに出版されたニューソート自己啓発書二冊の基本的な世界観はほぼ共通している。つまり、宇宙は一つの神・意識であり、人間もまたそのような意識の一部だという考えである。そして、人間の思考は現実化するために、自らの望みを現実化するには、ネガティブな思考を避け、ポジティブな思考を強く持つことが必要になる。そして、そのために自らの思考を操作する方法が説明されている。

このような基本構図は、ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』などの後の自己啓発書にも引き継がれていった。そして、現在ではアメリカのみならず日本でも、しっかりと根を張っているように思われる。ただし、その過程で、心理操作法やポジティブシンキングという側面は残り、その背景にある世界観は余り意識されなくなっていったように思われる。とはいえ、現代の自己啓発書について調べたことがないので良く分からない。現代の自己啓発書の背後にある世界観も、ぼちぼち調べたいものである。