ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

字幕担当者は、独和辞典を持っていないらしい(4)

また、『キング・フォー・バーニング』を見ていて気になったのは、字幕のキリスト教関係の用語が、全部間違っていることでした。

一番根本的な間違いは、Bischof あるいはFürstbischof を、「枢機卿」と訳していたことです。実際には、Bischof は、普通「司教」と訳します。これぐらいの用語は、どの独和辞典にも出ているはずなので、おそらく翻訳者は、辞書も引かないで、何となく枢機卿と訳してしまったのでしょう。

また、Dompropst が「教区長」と訳されていましたが、実際には「(司教座聖堂参事会)首席司祭」と訳すべきですし、「司祭」と訳されていたPrädikant は、「説教師」と訳すべきです。この二つの単語は、余り馴染みがない単語かもしれませんが、ドイツ語に携わる者なら必ず持っている小学館の独和大辞典には載っているので、やはり辞書を引かないで訳したものと思われます。

また、「ヴェストファーレン地方の真珠」という意味のPerle Westfalens を、この訳者は、「我が教区の真珠」と訳しています。この部分については、何故意訳したかという意図は理解できます。ヴェストファーレン地方というのは、ミュンスターを含むドイツ北西部一帯のことですが、日本人のほとんどはヴェストファーレンが何かを知らないので、「枢機卿」の支配する領土である「教区」という表現に置き換えたのでしょう。

ただ、意図は悪くないと思いますが、訳者にキリスト教の知識がなかったため、珍妙な訳になっています。前述の通り、このドラマの「枢機卿」は「司教」のことであり、彼が統治しているのは、単なる一「教区」でなく「司教区」です。ですから、意訳をするにしても、「我が教区の真珠」ではなく「我が司教区の真珠」としないと、元々の意味から、かなりかけ離れてしまうことになります。

もちろん、これらのキリスト教関係の用語が分からなかろうが、間違っていようが、ドラマの理解にほとんど影響はないと思いますが、やはり、プロの字幕製作者の方には、分からない単語は辞書を引いて調べるぐらいの努力はしていただきたいと思いました。