ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

ヨーロッパの貧困の歴史

文書館で相変わらず租税台帳を読み続けていますが、読んでいるうちに、色々な疑問が浮かび、確かめたいことが増えてくるので、無間地獄のようなものだと思います。Soest の市立文書館には1532年のTürkensteuer とSchatzungregister があるそうなので、これは是非見たいと思います。文書館に籠もっていると、まだちゃんと研究されていない史料が山ほどあることが分かって、まだまだ基礎研究のレベルでも、やらないとならないことが幾らでもあることが分かります。

租税文書を読む際の私の関心は、見えなくなってしまっている人々、つまり租税台帳に出てこない人々をどのように再構成するかということにあります。現在1594年のエギディ市区の人頭税と、教区税の比較を行っていますが、やはり人頭税の台帳に出てくる人数の方がかなり多いようです。これはどういう事かというと、教区税、つまり通常の租税の台帳には出てこない成人の住民が沢山いると言うことです。

彼らがどのような人々だったかは、今後個人レベルで比較を行う中で、次第に明らかになってくると思いますが、ミュンスターの一市区だけではなく、他の都市、特に16世紀前半のデータが欲しいところです。今のところ私は、通常の租税記録でどれくらいの住民が記載されなかったかに付いて言及した研究を知りません。租税を免除され、租税記録に載っていない人々については把握できないという記述は到るところで見るのですが。

しかし、下層民やマイノリティーについては大変興味があるところなので、そろそろこちらも、もう少し本腰を入れていかないといけない頃かなとも思います。とりあえず、中世から現代にかけてのヨーロッパにおける下層民の状況については、押さえたいと思っています。

ミュンスターに関しては、救貧施設や政策についての研究は90年代に集中的に行われ、膨大な蓄積がありますが、救貧員に入るほどでない大半の下層民のことは、それほど研究されていないような気がします。

とりあえず、基本線を押さえたいということで、概説書でも読みたいところですが、下層民の歴史の概説書、あるいは通史で定評のある本は何なのでしょうか。

とりあえず、気軽に読める日本語では、ヴォルフラム・フィッシャーの『貧者の社会経済史―中世以降のヨーロッパに現れた「社会問題」の諸相とその解決の試み』晃洋書房、1993年やジェフリー・ウィリアムソンの『不平等、貧困と歴史』ミネルヴァ書房、2003年などを見つけたので、日本に帰ったら読もうかと思います。

また、貧困や不平等一般に関しては、こっちでVerlag für Sozialwissenschaften (社会科学出版社)から出されたHradil, Stefan, Soziale Ungleichheit in Deutschland, 8. Auflage, 2001. という教科書を買ったので、少しずつ読もうかなと思っています。

他には、ネット上でアジア経済研究所の「貧困概念」基礎研究というファイルを見つけたので、これも追い追い読もうかと思っています。本当は世界銀行OECDの貧困に関するレポート、アマルティア・センの著作なども読みたいのですが、そこまではちょっと難しいかもしれません。

他にも、中近世の下層民研究で未読のものが沢山あるので、それも消化していかないとなりません。しかし、まだ自分の隣接した部分に、断片的な知識を持っているだけなので、概説書や通史、理論書を読んで、もう少し見通しを良くし、使い勝手を良くしないといけないなと、最近思い始めています。