ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

フランスとドイツの政教分離

Chorolynさんが、またもやどえらい詳細な本の紹介をしていました。

谷川稔『十字架と三色旗‐もうひとつの近代フランス‐』

この本は、革命期以降のフランスの「ライシテ Laïcité =非宗教性」の過程を扱ったものらしいです。


フランスは非常に厳格な政教分離を行う国ですが、お隣ドイツは、フランスと比べると、その辺はかなりあやふやになっています。ネットで見つけた、各国の政教分離のありかたを概観する文章によると以下の通りです。

フランスでは、一七九〇年以降、国民議会が、教会財産の没収や修道院の廃止など、カトリックに対する徹底した弾圧を行い、国家の非キリスト教化を進めた。フランス憲法第二条には「フランスは不可分にして、非宗教的、民主的、社会的な共和国である」とあり、「非宗教」(ライシテ)の原則が政治の場だけでなく、公教育においても守られてきた。

(中略)


 連邦国家であるドイツでは、教育制度は基本的に各州に任せられている。ドイツ基本法第七条第三項には「宗教教育は、公立学校においては、宗教に関係のない学校をのぞいて、正規の教科目である。宗教教育は、国の監督権をさまたげることなく、宗教団体の教義にしたがって行われる」と記されており、通常、宗教教育は、カトリック教会およびプロテスタント教会の指導のもとでなされている。カトリックプロテスタントの授業のほか、どちらも受けたくない生徒には「倫理」の授業も認めている。さらに、ドイツ国内に三百万人いると言われているイスラム教徒の子どもの宗教教育をどのように行うべきか、ということも大きな課題となっている。

 カトリックの勢力が強いドイツ南部のバイエルン州では、教室に十字架が掛けられている。それに対し、ある親から、公立学校に十字架を掲げるのは信教の自由に反するという訴えが出され、最終的に一九九七年、連邦憲法裁判所から違憲判決が出された。しかし、バイエルン州は、それを州レベルの問題として異議を唱え、現在も教室に十字架を掲げ続けている。バイエルン州の場合には、カトリック信仰が歴史的・文化的アイデンティティーのかなめとなっており、それが政教分離原則より優先されているのである。

 しかし、ドイツ全体を見ると、世俗化の波はとどめようもなく押し寄せてきている。たとえば、教会税(カトリックあるいはプロテスタントであることを申告している者の所得から天引きされる)の是非や、閉店法の緩和(一九九六年、閉店時間は月曜日から金曜日までの午後六時半が午後八時に、土曜日の午後二時が午後四時まで延長された。日曜営業は原則的に禁止)をめぐる議論が活発に続けられている。これらは直接的には政教分離問題ではないが、EU統合時代における国家と宗教のあり方に根本的な問いを投げかけている。


「日本人の知らない〈政教分離〉の多様性――宗教との向き合い方は永遠の課題」、『論座』(朝日新聞社)2001年10月号

また、ル・モンド・ディプロマティークの「イスラムのスカーフに対するヨーロッパ諸国の姿勢」という記事も参照。

ちなみに、教皇ベネディクト16世が、昨日まで故郷のバイエルンに里帰りしていたのですが、政教分離に関連して、Süddeutsche Zeitung で面白い記事がありました。

Die Protestantin und der Papst. Angela Merkel verspricht zu viel – und riskiert einen neuen Konflikt um die europäische Verfassung. (プロテスタント女性と教皇アンゲラ・メルケルは、過大な約束をして、ヨーロッパ憲法をめぐって新たな争いが起こる危険を冒している。)

この記事によると、我らがアンジー*1が、将来のヨーロッパ憲法に、キリスト教的価値観を盛り込むために力を尽くそうなどと宣い、教皇リップサービスをしていたそうです。リベラルなSüddeutsche Zeitung は、それって近代国家成立の基盤となった政教分離の原則に抵触するだけでなく、厳格な政教分離を行うフランスのヨーロッパ憲法受け入れをより一層困難にするから、政治的にもヤバイんじゃないの、とツッコミを入れていました。

(追記)他のところでメルケル発言が、批判されている様子は特に見られません。彼女がどれだけ本気で言っているかは分かりませんが、キリスト教政党の党首としては、そんなにおかしい発言ではないのかもしれませんね。Isram.de の記事も参照。

*1:ドイツの首相アンゲラ・メルケルの愛称。彼女は旧東出身だが、プロテスタント