ミュンスター再洗礼派研究日誌

宗教改革の少数派である再洗礼派について紹介していきます。特に16世紀のミュンスターや低地地方の再洗礼派、17~18世紀のノイヴィートの宗教的寛容を研究中。

ミュンスター再洗礼派

貧者の名誉と尊厳

先日「貧者の尊厳」という日記を書いたところ、id:sumita-mさんからトラックバックを頂きました。自分の研究関係の日記に言及を頂くというのは、おそらくこのブログ始まって以来の出来事なので、嬉しく思うと共に、恐縮しております。 非常に示唆に富む文章…

貧者の尊厳

少し前に話題になった赤木智弘さんの「『丸山眞男』をひっぱたきたい」と「続『丸山眞男』を ひっぱたきたい」」がネットで公開されていました。この文章は、社会的尊厳を得られない者が、社会的尊厳を得るためには、日本人であるという属性だけで尊厳と社会…

Myth and Reality of Anabaptist/Mennonite Women

以前ご紹介した再洗礼派やメンノー派女性に関するシンポジウム「Myth and Reality of Anabaptist/Mennonite Women」のプログラムが公開されました。行けないのが、返す返すも残念でなりません。 Myth and Reality of Anabaptist/Mennonite Women Internation…

面白そうな文献

Jelsma, Auke J. “The King and the Women: Münster, 1534-35.” In Frontiers of the Reformation. Dissidence and Orthodoxy in Sixteenth-CenturyEurope. Ed. Auke J. Jelsma, 52-74. Aldershot, 1998. Panhuysen, Luc. De beloofde stad. Opkomst en onde…

Westfaelische Zeitschrift, Nr. 156/2006

Westfälische Zeitschrift Zeitschrift für vaterländische Geschichte und Altertumskunde Nr. 156 Jahrgang 2006 403 Seiten, zahlreiche Abbildungen, 31,90 € ISSN 0083-9043 ISBN-10: 3-89710-355-9 ISBN-13: 978-3-89710-355-9S. 9-23 Bockhorst, Wolf…

A Companion to Anabaptism And Spiritualism, 1521-1700

A Companion to Anabaptism And Spiritualism, 1521-1700 (Brill's Companions to the Christian Tradition)作者: John D. Roth,James M. Stayer出版社/メーカー: Brill Academic Pub発売日: 2006/11/30メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (1件) を…

Global Anabaptist Mennonite Encyclopedia Online (GAMEO)

再洗礼派に関する英語のオンライン辞書です。 Global Anabaptist Mennonite Encyclopedia Online オランダ再洗礼派に関する新聞です。 doopsgezind nl

ようやく史料を読み終える

ここしばらく読んでいた史料をようやく読み終えました。この史料は、通称「異端の懺悔の書 Das Ketter-Bichtbok」という史料で、*1カトリック側が、福音派と再洗礼派をひたすら非難するという風刺詩です。この詩は、同時代にミュンスター住民によって書かれ…

あなたは、信仰ではなく、財産を求めている。

今読んでる史料は、カトリックの学校教師が書いたと見なされている詩です。内容は、ほとんど延々と罵詈雑言が続いているという感じで、本当に酷いです。福音派と再洗礼派は、異端だとか涜神者だとか、反乱者だとか、盗人だとか、裏切り者だとか、延々と罵倒…

一般意志

宮台:一般意志は、個人意志の集計じゃない。万人の合意じゃない。誰もがそう思うということじゃない。ルソー的にいえば、国民全員が出席する集会のごとき「祭り」の結果生じるもの。デュルケーム的にいえば「集合的沸騰」の結果生じるもの。ようは、自分が…

苦情書は反乱者の意志を伝えるか?

「一五二五年のドイツ農民戦争時の叛徒の諸要求は、より信頼できるかたちで残存している。それらは叛乱の理由を公に知らせるためにそのときに印刷されたからである。しかしそれでも問題は残る。それらの要求箇条がどのようにして作成されたかが知られていな…

下層民は、必ず社会革命を志向するか?

旧来の研究では、ミュンスター再洗礼派運動において下層民が多かったかという問題は、そのまま、再洗礼派運動が社会革命だったか、宗教運動だったかという問題と同一視されてきたというところがあります。これは、下層民による反乱を、マルクス主義的に解釈…

一致モデルと対立モデル

ピーター・バークの『歴史学と社会理論』によれば、社会についてのモデルの重要な二項対立の一つに、デュルケームを代表とする一致モデルとマルクスを代表とする対立モデルがあるとのことです。(40頁) しかし、言うまでもなく、この両者は補完関係にあり、相…

ミニマルな記述

ケルゼンブロッホの年代記には、宗教改革運動の最中の市当局と司教や諸身分などの手紙が、延々と引用されています。その中で、彼らは自分たちの身に起こったこと、そして司教が行ったこと、それに対する不平を述べているのですが、別々の相手に出した手紙で…

結構需要はあるのだろうか?

昨日のミュンスター再洗礼派に関するメモが、結構はてなブックマークされているようで(と言っても5人ですが)、これはどえらいことだと思いました。自分用のメモなので、あれだけ読んでも、大半の方には何のことか良く分からなかったと思うのですが。実は…

神学を理解していない者が、いかにしてある神学を支持するようになったか?

1532年8月16日に、ベルンハルト・ロートマンをはじめとした福音派説教師が、教会に残る悪癖についての文章を、市参事会に手渡し、その文章が彼らの前で読み上げられました。この文章の中で、ロートマンは教会の聖餐式に対して批判を行っているのです…

シンポジウム「再洗礼主義の境界:国際的再洗礼派研究のパースペクティブ」

つい、この間の8月23日から27日にかけて、ゲッティンゲン大学で再洗礼派研究の国際シンポジウムが開かれていたそうです。日本からの発表者は誰もいませんが、これは国辱的なので、近い将来、我々もこのようなシンポジウムに呼んでもらえるように、研究…

見えない人々

相変わらず延々と史料を読むだけの毎日が続いているのですが、何故ただ文字を読むだけで、これほどまでに心身共に疲弊するのか不思議に思います。私が今、主に探っているのは、ミュンスターにおける宗教改革運動の支持者についてです。史料に出てくる単語一…

16世紀の個人学校

ずっと断片的にしか読んでいなかったケルゼンブロッホというカトリックの学校の校長先生が書いた年代記のドイツ語訳を最初から読んでいるのですが、自分の研究と直接関係ないところでも、面白い記述がてんこ盛りで、史料を読み始めると、検討したいテーマが…

下層民にも、都市に対する思い入れはあったのか?

メラーやブリックレ以来、初期段階における宗教改革運動は、共同体原理を原動力とする民衆の渇望によって推進されたと言われてきましたが、最近考えているのは、ゲマインデの成員とそこに属さない人々では、都市共同体に対する思い入れが、全然違うのではな…

変数操作と比較

このところずっと、ミュンスター再洗礼派だけでなく、宗教改革全般や中世末から近世にかけての動きについて調べています。歴史学では、自然科学とは異なり因果関係を実験により確定することができません。その際、社会科学では、変数を操作するために、比較…

市参事会対説教師

相変わらずひたすら文献を読んでいますが、その過程で、宗教改革運動における市参事会と説教師に関係について、もっと検討する必要があると思うようになってきました。ある都市で宗教改革が導入されるためには、市参事会が首を縦に振らなければなりません。…

ミュンスター固有の条件とは?

ミュンスターで再洗礼派運動が成功した最大の理由は、ベルンハルト・ロートマンという卓越した神学者の存在ですが、(内田的)系譜学的に、もしミュンスターにロートマンがいなかったらどうなったか、あるいは他の都市にロートマンがいたらどうなっただろう…

大昔の小冊子の残酷描写

16世紀は、印刷技術の発達により、飛躍的に出版物の種類と量が増えた時代です。特に、宗教改革派は、自分たちの主張を世に広めるために、積極的に俗語で書かれた小冊子を出版しました。このような小冊子の多くは、論争的な性格を持つもので、プロパガンダ…

ハンガリーのマリアはゲルダー公を疑っている?

私が研究を進める中で、自分ではできないことは沢山あります。残念ながら私には、語学の才能が絶望的に欠如しているので、語学にはいつも困っています。しかし、この間ブリュッセルに行ったときに写真に撮ってきたハンガリーのマリアの手紙は、フランス語で…

久々の新しい研究

今年は、ミュンスター司教領が成立してから1200年ということで、大規模な催し物が色々と行われました。その一環で、5巻からなる大部の司教領の歴史が刊行されています。そして、その第三巻目に、我らが再洗礼派が登場しました。しかも、第三巻の一部分…

ベルンハルト・ロートマンの生まれた街Stadtlohn

ミュンスターはすっかり寒くなってしまいましたが、このところ雲一つないような快晴が続いているので、ミュンスターラントの小都市を回っています。今日は、ミュンスター宗教改革運動、そしてミュンスター再洗礼派の中心的神学者であるBernhard Rothmann (…

ヒレ・ファイケンの小説。

私は読んでいませんが、ヒレ・ファイケンをモデルにした小説があるようです。 Norbert Johannimloh という方の「Die zweite Judith」(「第二のユディト」)というタイトルだそうです。ヒレ・ファイケンだけでなく、王妃ディヴァラや、エリザベス・ヴァント…

ヒレ・ファイケンのお父さんは日雇い労働者。

この間、フリースラントを旅しましたが、この旅の一つの目玉は、ヒレ・ファイケンの生地を訪れることでした。彼女は、神から啓示を受け、旧約聖書のヒロインであるユディトを模して、ミュンスター司教を暗殺しに行った女性です。彼女のこの特異な行動も興味…

歴史学の成果は、世間で広まるか?

この間、天気が良かったので、雑木林に行き、木陰の下で論文を読んでいました。すると、犬を連れたおばさんが近寄ってきたので、しばらく世話話をしました。私がミュンスターの再洗礼派について研究していると言うと、彼女は再洗礼派は悪い奴らだった、一夫…